イギリス契約法の基本思想/ニコラス・J・マックブライド(著) 菅 富美枝 (翻訳)

イギリス契約法についての基本的な考え方を伝えるもの。類書がないこともあり、イギリス法系の契約書に用事があるのであれば、手元にあって損はなさそうな一冊。

 

一応アメリカの弁護士資格を有していて、アメリカ法についてはなにがしかの勉強はしたことになっているが(正味どうなのかは...(汗))、イギリス法*1については、何も知らず、その反面、頻度は少ないがイギリス法系の議論(英連邦系の法律によるものも含め)に接することもあって、イギリス法についても気になっているのだが、なかなか本を読むところまで至っていなかった。和書では「国際商取引契約―英国法にもとづく分析」は購入したものの、積読山の最古層に埋まったままである。

 

本書は140頁ほどのコンパクトな本で、イギリス契約法の基本的な考え方について解説してくれているもので、このくらいであれば怠惰なこちらでも一読することが出来た。正直文章は時々読みにくい(元の文章の問題のような気がするが)が、それでも内容の興味深さで読み進めることはできた。普段契約書を読むときに見る諸々のかの法域特有の事柄についての解説というよりも、その背後にある考え方についての説明に徹していて、それが比較的わかりやすく説かれているので、読んでいて、どこまで理解できたかは心もとないものの、面白かった。

 

いくつか印象に残った点をメモしておく。

  • 本書の構成がまず印象的。「はじめに」「市場」「リスク」「良心」「契約の自由の限界」「贈与」という章立てになっている。これだけでも通常の契約法の教科書的な構成でないことがわかる。約因周りの話が「贈与」のところで語られていたりするところや、非良心性についての議論が丁寧に説明されている点(重要度の反映なのだろう。)も印象的だった。アメリカでのそれよりも重要度が高いのかもしれない。
  • イギリス法といいつつ、英連邦系の他の国の裁判例も引かれるのは、こちらが慣れていないこともあり、ちょっと驚いた。
  • 特定履行命令が例外的である理由が結構丁寧に説明されていて、なるほど、こういう見方なのかと納得するところがあった。これまでは例外的であるという指摘は見たものの、そういう扱いになる理由は見た記憶がなかったので。
  • エストッペルについて、もともとは証拠法の考え方だったという指摘には、納得。いままでその淵源を考えたことがなかったので印象に残った。

*1:という言い方が適切なのかどうかについては、アメリカ法という言い方と同じく疑義があることは認識しているがこの点は置く