リーガルイングリッシュ / 阿部 博友 (著)

目を通したので感想等をメモ。お手元にあると有用な(こともある)一冊、というところかと。

契約社会の下、国際的に働くビジネスパーソンにこそLegal Englishを学んでほしいという思いから編まれたLegal English全般に関するテキストということらしい。法学部とか法科大学院での授業以外を想定しているから、口頭でのコミュニケーションの側面についての言及もある。

 

大学での授業で使う想定ということもあって、全体を5つのパート、25のlessonに分けていて、それぞれのところで、内容的に完結している形なので、関係のありそうなところだけ読むのもアリだろう。各lessonごとに関係する語彙のグロッサリーが末尾にあるのも有用*1かもしれない。個人的には句読点・約物の扱いについてのLessonが有用な気がした。

 

前記の想定ということもあって、広く浅く各分野に触れているため、それぞれについての法律面での解説はあっさり目なので、法務の担当者や弁護士が読むには物足りなくなるかもしれない(細かい字で付されている注釈まで読むとある程度解消されると思うが)。とはいえ、それぞれのLessonごとに参考文献が付されていて、「その先」へのアクセスも確保されている。

 

そんなこんなで、法律英語について触れる最初の一冊としては有用だろうし、そうでない人にとっても、手元にあれば有用なのではないかと感じる次第。

 

とは言いつつも、いくつか違和感があった点もあったので、大きな点をいくつかメモしておく。こういう点もあって、こちらの評価は上記の程度に留まるのだが。

  • 一番違和感があったのは最後のlegal researchのところ。このご時世(感染症禍で図書館へのアクセスも必ずしも容易ではないことも含む)にネット経由でのリサーチについての言及がほとんどないこと。ビジネスパーソン向けであれば、殊更に商用のデータベースにアクセスしなくても使える、ネット上にある、findlaw.comとかLII@Cornelの使い方についての言及があるべきだろう。
  • 英語・米語の双方に触れるという意味合いもあってのことだろうが、米国での話と英国での話が混在していて、読んでいて分かりにくく感じることもあった。両方に触れつつ誤解を避ける意味では、くどいくらいに区別を表示するようにした方がいいのではないだろうか。
  • 判例法としての英米法ということを強調したいのだろうとは思うけど、他方で英国の会社法の条文とかの引用があったりするので、英米法における法典化(codification)の位置づけ、要するに判例法の原則を覆すほどではない、ということについて言及があった方がよかったのではないか*2
  • CISGについて、締約国が多いことを積極的に評価しているように読めるのだけど、日本とかアメリカだと寧ろ適用可能としていても条文上opt outしていることの方が多いように見える。要するに、選択肢には入れているだけで、実際には使う頻度が少ないようにも見える。そういうところで前記のように読める記載があるのは疑問を覚える。
  • Plain Englishについても言及はあるが、どこまで普及しているかは疑義があり、あれに基づいてdraftに手を入れても、意図が通じない可能性もあることに注意が必要ではないかと。

*1:この部分だけを見ると、先日取り上げた某書に似ているようにも見えるわけだが、かの書籍は、日本法について英語で説明するために有用な反面、日本人が英文契約等に取り組む際の手助けにするには使いづらいように思われる。こちらのエントリではその点の説明不足があり、誤解を与えてしまったようで、その点についてはお詫びいたします。なお、英文契約を読むうえで優先順位の高い語彙について集中的に学ぶという意味では、「英文契約の考え方」の中の「契約用語50選」をまず見るべきと考える。脊髄反射的に1対1対応で単語を覚える程度で役に立つことは、正直たかが知れていると思うので、寧ろこの50語をしっかり学ぶのが重要と感じる次第。

*2:この点については例文2-2でそのあたりに触れているようなので、このlessonで言及するのが筋だろう。なお、例文2-2の和訳は訳抜けがあるのではなかろうか...。