青い鳥を求めて、ではないはず。

以下雑駁なメモ。自棄気味に、#萌渋スペース、なるハッシュタグをつけたTwitter上のスペースでのくまった先生との話のために準備したもの。

 

(以下、当然ながら、こちらの経験に基づく主観的な見解であり、異論があり得ること、及び、こちらの見解であるものの、諸般の事情により、こちらの現在・過去の勤務先における行動とは整合するとは限らないことをあらかじめ付言しておく。)

 

くまった先生からのお題は「外の弁護士との付き合い方」というところ*1。企業内法務において、外部の弁護士に依頼をするときに、中でどういうことを考えているか、というのは、あまり考えたことがなかったが、以下考えてみる。

 

そもそも、それなりの規模の企業であれば、外部の弁護士に何かを依頼するという話になるのは、何らかの動機があってのこと、というのが通常と思われる。特に中に法務部門(機能としてのそれであり、実際の名称は問わない)があるときはそうなる、はず。なので、まずはその動機を考えてみるべきだろう。かつて、この辺りについて、企業と弁護士の付き合い方を分類したエントリを書いたのを思い出した。この分類は、企業側が弁護士に依頼する動機を示しているものになっていると考えるので、分類を一部手直して、検討してみる*2。なお、1から3は顧問契約となることが多いだろうし、4と5は単発の契約ということになりがちだろう。

  1. 何でも屋:とりあえずなんでも相談できる法律事務所を確保する、顧問弁護士の一つ目、とかはこうした動機に拠ることが多いのではないか。事務所としての守備範囲の広さとレスポンスの良さ、が重要なのではなかろうか。企業内法務が充実してくれば、この役目は不要となるのかもしれない。
  2. 専門系:分かりやすいのは知財とか、労務、税務、渉外あたりだろうか。1のところで対応しきれないと判断されたところが回る感じだろうか。1の代わりに、頻出の分野について分野ごとに顧問契約をして、それ以外はスポットで依頼するということもあり得るだろう。
  3. 老師系:1の発展形ということになろうか。それなりの大きさと歴史のある企業でありうるケース。弁護士としての経験値とその会社との付き合いの長さの両方を兼ね添えていることが重要。下手な社員よりも企業カルチャーとかに詳しかったり、偉い人とも飲み友達だったりするケースもある。大きな方針とかについてご意見をお伺いするケースが多く、「この先生が言うんだったら」という格好で社内でも上の方の説得の材料としてご意見をいただくこともある。
  4. 猫の手系:語弊のある表現かもしれないが、要するに手が足りないので手を借りるというもの。大規模M&Aとか最近だと不祥事対応(第三者委員会)等が大人数の動員をかけるのでわかりやすいのだろうが、もっと日常的なものでも、手が足りないときに依頼することは想定可能だろう。一定のクオリティ/資格の人間が一定期間内に一定人数動員可能であることが重要で、そこでは、一番上以外の弁護士の個性・能力が問われることは少ない(下の方の先生について個別にダメを出される可能性はあるけど)。その事務所に対するクライアント側の本音ベースでの評価が良かろうと悪かろうと、諸般の事情(コンフリクトの問題とか)で、依頼できるところが限られる場合もある。
  5. 権威系:問題のある案件で意見書をもらって、会社側が外向けのディフェンスに使うようなケース。外向けの用途である点が3と異なる。経歴と学識重視。学者の先生以外がこれをすることは少ないのではないか。

契約形態についていえば、顧問契約にすると、利益相反などから対応してもらえない可能性が減るのと、付き合いが長くなれば、色々な意味で実情を把握してもらえることで、話が早くなる、というメリットがあるので、それがいるかどうかというところが、主な判断要因となるのではないか。デメリットとしては、固定費として、何も相談していなくても費用がかかることと、事務所と社内の人間との間に変に関係性ができてしまって、何らかの理由でその事務所・弁護士以外に相談したいときに、それをしづらくなるということが出てくるかもしれない(上記の「老師系」の裏返しということになるかもしれない。)、というあたりが考えられる。

 

さて、新しく弁護士・事務所と契約したいとなったときにどうやって探すか、が次の問題。まずは、上記のような動機とそれ以外の要件*3があるはずなので、そこを明らかにしたうえで、それらを踏まえて探す、ということになるのだろう。そのうえで、探す手段は色々あり得るだろう。この辺りは上記の動機とかも絡んできて、かかりつけ医的な顧問弁護士がいて、対応できない専門分野があれば、その先生から紹介してもらうというのは、一つの方法だろう。その場合、顧問弁護士が、会社との相性も含めて考えてくれることも期待できるかもしれない(その分責任が生じるだろうが)。

独力で探すとなれば、インターネット上にある情報は一つの情報源になるだろう。もっと古典的な手としては、セミナーで話を聞いてみるとか、雑誌での執筆活動を見るとかそういうのもあるだろう。判例データベースで関与している事件を見つけて、というのもあり得るだろう。ただし、その場合は、そもそもの事件の事実関係が悪すぎて参考にならないケースとかもあるだろうから、どういう点を参考にするかは注意が必要で、取り扱い経験のある分野を見る程度が無難なのではないか。

 

ある程度「あたり」を付けたら、実際に話をしてみるとかになるのではないか。場合によっては、「お試し」で何かをお願いするということもあり得るだろう。実際に契約する可能性がある場合には、ネットで広く開示している以上の情報を開示してくれることもあるかもしれない。

 

その上で、自分の中で、OKという判断になったら、然るべき社内承認を得るということになるものと思われる。社内的な予算措置などが新規に必要になればなおのこと。

ここで、注意すべきは、最終的な意思決定を会社でするのは、法務の弁えのある人とは限らないということだろうか。いずれにしても、もともとの動機を充足し、その他の要件との関係でも問題がないこと、を示すことなどが必要となるだろう。裏を返すと、キーマンが欲しいと思いそうな情報は集めておく必要がある*4

 

以上は、企業内法務が主体的に動いて、起用に至る形を想定したが、それとは形もあり得る。情報提供のみとか、起用候補者を示されて意見を述べる、という形も想定される。個人的には、この種の経験は記憶にないが、いずれにしても、企業内法務側が企業内でのコントロールタワーになって、外部弁護士との関係を制御(どこまでするかは状況次第だろうが)した方が良いのではないかと感じる。複数の事務所にばらばらに意見を訊いたら、食い違ったというような事態が生じると収拾に手間がかかることも考えられる。遺憾ながら、その種の事態を見た経験がないではない。

 

さて、起用に至った後の話だが、個人的には、タイムチャージであっても、それ以外であっても、稼働実績は可能な限りもらうようにしている。無用な、というか、回避可能な稼働をお願いしているのであれば、適宜対応をして費用削減に努めるべきだろう。そういう依頼をすることで、一定の適切な緊張関係を保つことも重要と考える。
なお、前にもエントリにしたが、この際に、請求書の記載の仕方から、事務所のサービスの質が見えてくることもある。大手であっても、請求書の細部に疑義がある事務所もゼロではない、ということ。企業内では、中途半端に計算の合わない請求書だと、経理に詰められる危険があるので*5、その辺は注意が必要という気がする。

 

それと、先般、事務所の弁護士さんが、概要、単に助言するだけでなく、会社の意思決定を導くところまで関与する、というようなことを呟いているのに接したけど、企業内にいる者としては、その熱意に敬意を表することはやぶさかではないものの、やや疑問を覚えた。特に一定以上の大きさの企業では、企業内での意思決定プロセスは、ややもすると、企業内にいても見えないところが出てきかねないのに、外の人間に全容が見えることがあるとは考えにくいのではないか。仮にそうだとすると、そういうところで、中途半端な動きをすると、却って中の人が動きづらくなる危険がある*6。中の人に相応の弁えがある場合には、ある種の忖度を求めるならばその旨伝えるだろうから*7、それ以外の時は、ある種中立的な方が無難なのではないかと感じる。

 

…とまあ、こんなところか。この手の話題で一番難しいのは「老師」化した後で「使えない」と判断された先生との関係の終わらせ方ではないかと思うが、これについては、何かを語れるほどの経験値がないので、もっとエライ人に訊いてもらえればと思う次第。

 

追記:以下はスペース終了後に記載。

ご参加いただいた方々ありがとうございました。特に、くまった先生、それから、突然御呼びたて?した経文緯武先輩(こちら以下を参照)、ありがとうございました。なお、今後もネタがあればスペースはあるかもしれませんので、ネタも募集しております(汗)。

*1:その下にさらに詳細があったが、今回は、書きづらいので個別に項目立てはしていない。ただし、内容的にはカバーしているはず。

*2:件のエントリについてどこかでupdate版を作成したいと考えていたので、今回はちょうど良い機会になったとも言える。

*3:費用感とか、ステータスを求めるか、とか、色々あり得るだろう。長期的な依頼をする場合には、BCPではないが、弁1事務所には依頼しにくいかもしれない。総会指導とかのように、ピンポイントでその場にいてほしいような依頼をする場合には特に。

*4:かつてエントリにメモしたが、欲しい情報(取り扱い事件の実績)が事務所のサイトに載っていることが求められるケースもある。

*5:ご気分を害する事務所の先生方もおられるかもしれないが、経理から見れば、弁護士事務所は一サプライヤーであるという見方もあり得て、その見方を前提にすれば、請求書に疑義があると、法務がそのサプライヤー管理をちゃんとせずに請求書を支払いに回してきているのではないかという疑惑を招きかねないわけで、それは結局当の事務所にとっても不利に作用する危険がゼロではないように思う。

*6:「老師」になると上の方が見えることがあるかもしれないが、その場合には下の方は見えにくくなるのではないかと考える。

*7:その場合に忖度に応じるか否かは状況によって異なるだろう。