お付き合いの仕方について

さて。#萌渋スペース 用のエントリです*1。以前のエントリとも重なる部分があるかもしれけど、その辺はご海容を賜れば幸いです。

 

今回のお題は「こんな弁護士は困る」というあたり*2。企業内法務*3としての視点で考えてみようかと。したがって、以下でいう弁護士は、企業内から見た*4、企業外の弁護士について、ということになる。当然のことながら、こちらの体感に基づく話なので、異論等がありうることは言うまでもない。また、こちらが以下の記載をどこまで貫徹できているかについては、高い棚の上にあがっていることも同様にいうまでもない。

 

弁護士のありがちな困ったところ

今までのところは、運が良かったのか、自分たちがお願いした先生方についてそれほど困った記憶がない*5。敢えて言うなら、時間に関する部分かもしれない。一定の期限までに何かをお願いして、それを徒過されたことは、自分がお願いした弁護士さんについてはいないけど(ないようにしているからだけど)、勤務先に関する訴訟では、相手方の代理人の先生方について、その種のことは時折経験したことがある。もちろん、代理人の先生だけの問題ではないとは思うけど。

あとは、朝10時前に捕まえづらいのも、時に困ることがある*6。もちろん事前に予定できるなら、お願いをしておけばよいのだけど、突発で連絡したいときは困ることがあった(現職では、今までのところ、そういう事態になったことがこれまでのところではないが)。

 

それともう一つ思い出したのが、過度の保身が見える場合か。依頼者であろうこちらから「刺されない」ように、という思いが透けて見えるようなアウトプットもどうかと思う。過去の勤務先において、過去のM&A案件のDDレポートを見ていたら、本題に入る前の免責事項の類が長くて呆れたことがあるが、そういうものも含まれる。過去の萌渋スペース/エントリでも述べた通り、そういうものは、依頼者に対する不信感の裏返しと、依頼者側としては受け取る場合もある*7

 

弁護士をコントロールする

企業内から企業外の弁護士さんに何かをお願いするということは、特定の案件において、特定の実現したい方向性があって、その方向に向かうために何らかのお願いをしているはず。そうなると、実現したい方向に沿う形でのアウトプットなり助言なりが、依頼者側としては一番欲しいものということになる。もちろん、それが何らかの場合で実現不能または困難という場合はその旨根拠と共に示してもらう必要はあるのだが、それなりの企業内法務が、「前捌き」をそれなりにしていれば、そういうことはむしろ稀なはず。

そして、外部の先生にお願いをするとなると、企業内法務としては、どの先生にお願いするのが良いかということから考え始めることもあるわけで、そういう場合は、そこから「コントロール」は始まっている。複数の先生にお願いする選択肢がある場合には、その中でどの先生にお願いをするか、というのは、他に制約がなければ*8、実現したい方向性を示してくれる確率の高い先生を選ぶのが通常だろう。

次に、お願いする相手が決まったとしても、お願いの仕方で、結果はある程度「コントロール」できるものと考える。直截に、こういう方向性で回答を欲しいと依頼するのは、一つの分かりやすいやり方だろう。意味もなく、そういう依頼に反するアウトプットをしてくる先生がいたら、そういう先生との付き合いは考え直した方がいいだろう。そこまでしなくても、前提事実の置き方*9や渡す情報のありようを調整することで、一定程度方向性は変わり得る。姑息なので、お薦めはしないが、依頼のタイミングを調整するという手だって想定はできる。

もちろん、そういうやり口の恣意性が露骨だと、依頼をされる先生方にも、見抜かれてしまうだろうから、その点にも注意が必要だが*10、ともあれ、一定程度「コントロール」は可能であることは間違いないのだから、後で自分たち依頼する側の首を絞めるような事態になるのを防ぐ程度には、うまく「コントロール」することを考えてもよいのではないかと考える。

 

弁護士のうまい利用の仕方、付き合いかた

このあたりも手探り状態が続いているが、自分が短い期間とはいえ、事務所のアソをしてみて、その立場での案件の見え方という者も踏まえて*11、いくつかのことをメモしてみたい*12

 

1 ご利用はお早めに、計画的に

時間というリソースは万人に平等だが、事務所の先生方が仕事をできる時間も有限であるうえ、その中でこちらの案件に割ける時間が有限なのも事実。締め切りのある話であれば、締め切りまでの残り時間の中で、採りうる行動の選択肢も変わってくることがある。そういう意味では、時間を割くアレンジがしてもらいやすいよう早めかつ計画的なご利用が重要というのは間違いないだろう。

 

2 不利と思われることほど隠さずに

当たり前とも思えることだが、言うほどやさしい話ではない。言ったらどう思われるか、みたいな話*13もあるかもしれない。そういうもので、目先の案件との関係で、自分たちに不利に作用しうるものがあるとしても、それが本当に不利に作用するかは、明確ではないうえ、仮にそういう可能性があったとしても、その可能性を踏まえて事前に対応を考えるなどすることで、不利な事象の不利さ加減を減少させることが出来るかもしれない。だからこそ、隠さずに伝えておくことが重要となる。別の見方をすれば、そういうことができないと思う相手に相談等をすることは避けた方がいいのかもしれない。

 

3 気になることは早めに伝えよう

前項と重なる部分があるかもしれないが、これも重要な点。案件については、依頼者の方が接している情報量は多いし*14、当事者として違和感等を覚える部分に何かが潜んでいることもあるのだから、気になる点は、些細な点でも、一旦は話題にしてみるのが良いと感じる。そして、案件の内容に関するものだけではなく、報酬の計算方法、レスポンスのスピードなど、どんなことでも気になる点は訊いておくのが吉。繰り返しになるが、そういうことも訊けないような相手は、相談等をする相手として適しているのか考え直した方が良い。

 

4 (上記に反しない範囲で、かつ、出来る範囲で)ある程度整理はしてから相談しよう。関係のある資料は一度は見てもらおう

これは、諸々の制約条件の中でバランスを取る必要がある話だが*15、無秩序な状態で相談を持ち込んでも、その整理に時間がかかるのは当然なので、個別具体的な状況下で可能な範囲で、整理をしてから相談等に臨むのが適切だろう。いくつかの切り口で整理の仕方を考えてみたい。

(1)登場人物の関係、役割

相談等をする相手である外の弁護士は、案件で関係のある種々の当事者が、いったい何者で、どういう形で関与するのかから、理解していない可能性がある。そうであれば、それらの関係を整理することは必須であろう。取引についてはスキーム図の形で示せると良い。自分で図示を試みる中で、自己の理解が整理されることもある。

また、時の経過の中で、当事者が名称や形態を変えている場合(当事者の組織再編等)は、それぞれがどういう変遷をたどったかも整理しないと話が見えづらくなる。

(2)特殊用語

社内用語・業界用語というのは、その外にいる人間にはわからないことが多い。これらについても、説明できることは、誤解を避ける意味では重要。特に、世間一般と異なる用法をしている場合は、説明しないまま進むと話をおかしくする危険がある。略称が多用される場合は、その略称の元のものを示すことも、ここには含まれる。

(3)時系列

時の経過で、何がどう変化したのかということは重要。物事の変化の順序によって、話が変わることもあるので。表形式で、時期(可能であれば日時を特定したいが困難な場合には大まかな時期でもやむを得ないだろう。各出来事ごとの前後関係がわかるだけでも有用といえる。)とその時期におきた出来事、それから、その内容がわかる資料を整理してみると良い*16

(4)獲得目標

結局どうしたいの、というあたりも重要。どうしたいのかわからないで相談されても、相談された側は困るだろう。もちろん、一方当事者の希望でしかないので、それが常に適うとは限らない(適うのであればそもそも相談とかしないのではないか。)し、往々にしてそうはできないということもあろうから、併せて、妥協の余地も考えておくべきだろう。特定の結論に拘り過ぎることで、却って事態が悪化するということも想定可能だからである。この辺りを用意してもらうよう、事業部門を「説得」することも企業内法務の役回りの一つだろう。

(5)資料

上記の点と併せて関係する資料の現物も示せるようにしておくのが望ましいと考える*17。当事者の認識と、実際の資料との間に齟齬がある可能性もあるし、訴訟などになった場合には、そういった資料当事者の資料を裏付ける証拠となることが想定されるわけだから、資料から、訴訟などになった際に、どこまでこちらの主張が「通り」そうかの見立ても重要なことは多言を要さないだろう。その意味では、一度はみてもらうべきで、迷ったら見てもらうくらいのスタンスが無難ではないだろうか。

5 周辺事情のインプットも適宜したほうがよいかもしれない

タイムチャージとかで報酬を計算している場合などは、費用を気にして、目の前の案件に直接関係するかどうか疑義のある話は、依頼者サイドから見るとしづらくなることもあるだろうが、依頼者側の最終的な意思決定に関係する可能性がある周辺情報については、適宜インプットが必要となるように思う。会社の歴史とか文化、等や紛争慣れの度合いとかもについての情報がそういうものに含まれるだろう。外部弁護士側からのアウトプットの説明の噛み砕き方、表現ぶりにそういうところが影響する場合もあるかもしれない。

6 結果も共有しよう

顧問弁護士など継続的に相談をする場合には、企業側としてはここも留意が必要と考える。問題が断片的に持ち込まれても、一旦したアウトプットからどういう帰結がもたらされたかがわからないと、アウトプットのやり方があっていたのかは掴みづらいし、仮に問題点があれば、可能な範囲で修正を試みることもしづらくなる。そういう意味では適宜のタイミングで相談した案件についての結果は共有することも意味があると考える。この辺りは一度事務所のアソをやってみて実感したところである。

 

弁護士と情報交換をしよう  

この部分も重要とは思うが、この辺りはこちらもまだ手探りというところ。

1まず、顧問弁護士以外の弁護士さんとの関係で考えてみる。

(1) 何のために?

ア 相手を知る

イ こちらを理解してもらう

最低限この2つの効用は得られるだろう。何らかの理由(これまでの顧問弁護士の事務所では対応が困難とか)で新しく弁護士を探すとしても、探す際に、外部の情報しかないのと、自分の肌感覚のレベルで情報を持っているのとでは、探しやすさや「外れ」*18を引かない確率は異なってくるのではないかと思う。

また、特定の弁護士しか知らないとなると、仮にその弁護士のパフォーマンスに満足していたとしても、他にもっと「いい先生」*19がいるのではないか、という点も判断できないことになる。自社で付き合いのある先生を相対化する視点を持つことは、「なれ合い」を防ぎ、適度な緊張関係を維持する上では、重要ではないかと考える。

(2)どういう情報を?

守秘義務の関係で疑義が生じる情報をやり取りするのは避けた方が良いのだろうが、それ以外については、どういう情報が良いのかは、正直考えがまとまっていない。相互理解を促進する情報が良いのではないかと思うし、双方が興味を持てそうな情報の方が良いだろうとは思うのだが...。

2 顧問弁護士との関係

相互理解は既に一定程度得られているはずで、守秘義務については気にする必要はないけど、気を付けるべきは、社内で、一定の人のみ共有されていて、その他の人に共有されていないし、すべきではない情報の扱いだろうか。顧問弁護士が社内の色んな人と接点がある場合(付き合いの長い弁護士だとそういうことが時に生じ得る)に、その辺りの間合いまで共有していないと、面倒の原因になることがあると考える。

 

…とまあ、思いつくのはこれくらい。何かのご参考になれば幸甚というところか。

 

追記)経文緯武先輩のエントリはこちら。経文緯武先輩、くまった先生、お聞きいただいた皆様、ありがとうございました。

tokyo.way-nifty.com

*1:冷静に考えると、こちらの話すことは本エントリに概ね網羅されているはずなので、タイパとやらに追われている方々に置かれては、こちらのエントリとハッシュタグでTLを追いかけていただければ足りるのではないかと思われる。

*2:お題の下に細目も提示されていて細目については、以下で下線を付してみた。

*3:機能としてのそれであり、企業内での部署名は問わない。

*4:企業内で依頼する法務部署の担当者については、当然のことながら、資格の有無は問わない。

*5:相応にお願いする相手を選んでいるから、というのが大きいのだろう。敢えて言うなら、初職の頃に、訴訟の期日の場で、無用に相手の代理人をいじめているように見える先生というのがいて、見ている分には面白いのだが、却って無益な争いを引き起こさないか気になったことがある程度か。

*6:初職の訴訟で朝10時の期日に顧問事務所のアソの先生が2分くらい遅れて来ていて、焦ったことがあったのを思い出した。今にして思えば別にどうということはない話だが。

*7:このエントリの第1稿を「ブルペン」ー経文緯武先輩とくまった先生とのDMをやり取りする空間で、大っぴらにできない洒落にならない話が飛び交うところーでお二方にご覧いただいたところ、くまった先生から次のような「更問い」が来た。問の内容とこちらのお応えを脚注の形で追記してみる。
SNSで「ご活躍」な弁護士はどう思うか、商売っ気の強い弁護士はどうか、アドベントカレンダーで空気を読まずにいろいろやらかす弁護士はどうか。それらはさておき、例えば営業(ばかりに)熱心な弁護士、受け身すぎる弁護士(アウトプットや会社とのかかわりも最小限にする)とかどうみえるか。
SNSでの「ご活躍」については、その内容によるとしか言いようがない。所謂クソリプという与太の類(くまった先生はファシリテーションだけではなくこちらも得意だが(汗)。)は別として、SNSでもまともな内容を発信されている先生はいる(怒られそうにない例を挙げれば、元勲髭(謎)の伊藤先生とか、最近すっかりブル弁が板についた感のある柴田先生(汗)とか)。うまくやれば専門性の一端を示すことで営業につながることもあろう。他方で、胸焼けするくらい商売っ気が先行する割に実際に依頼したら(以下略)のセンセイとか、空気を読まずに自分語りと宣伝しかしないセンセイもいる(特定のセンセイを想定しているように見えたら気の所為であろう。気づかないほうがいいことも世の中にはあるのですよ(白目))。そういう方々については、ネット上をそれなりに漂っていれば、おのずから見えてくるので、その辺りが見えて来れば、避ける結果になるだろう(そういうのも含めてリテラシーかもしれない(謎)。)。そういうセンセイ方は所謂情弱商売(汗)なんだろうから、そうやって見極めをする層にはそもそも用事がないのだろう。
営業ばかり熱心というのも、チームプレイで、背後にきっちりこなしてくれる先生がいて、チーム全体で見たら、きちんと機能している限りは問題ないということになろう。もっとも、チーム全体としての費用対効果はそれと別に考えることになろうが。

*8:選択肢がない場合もあるので、そういうことは言うほど多くないのも事実だろうが。

*9:この辺りは従前経文緯武先輩が指摘されていた。

*10:この辺りは、企業内法務と依頼する事業部門との間の関係でも一定程度成り立ちうることはいうまでもない。

*11:この部分があの短い期間で、得られた知見の中で、今「活きる」部分の一つなのだろうと思う。

*12:一部は、事業部門の企業内法務の「使い方」という意味で書いた過去のエントリでの記載(契約書検討とか紛争対応とかに分けているが)と重なる部分があるが、その点はご容赦を。見解が変わっている部分があったとしたら、その部分はこちらが「進歩」したのかもしれないと思っていただけるとありがたい。

*13:企業の場合、諸々のしがらみから、傍目から見れば馬鹿げた話に見えることというのも存在する場合があり得る。特に歴史の長い企業でその種の事象は存在しやすいと考える。

*14:接している情報の持っている意味が理解できているかどうかは別なので、そういう意味でも、一度言葉にして意見を求めることには意味があると言える。

*15:整理をしているうちに締め切りを徒過してしまったのでは、有害無益であるうえ、自分の能力に疑義を持たれる可能性があることは言うまでもない。

*16:こういう整理をする中で、冷静さを取り戻すという場合があることも認識しておいてよいかもしれない。

*17:こうした対応の前提として、資料をむやみに処分しない(書き込みなどをしないことも含む。)ことが重要になることは言うまでもない。法律上必須ではないとしても、USでのlitigation holdのようなものを社内に必要に応じて周知徹底することは、時に重要となろう。

*18:自社にとってのそれであり、能力以前の相性の部分に基づきそういう判断がなされることがありうることにも留意が必要だろう。

*19:相性の面も含めて、ということになろうが。