中からみると

何のことやら。

#本エントリは#裏LegalAC 参加エントリです。

 

きっかけはこちらの呟き*1

「中の人」からすれば、言葉を選ばずに言えば、当たり前のことしか書いていないとも感じるのだけど、外には伝わりにくいのかもしれないと改めて思う。なので、網羅的ではないとしても、体感に基づいて*2「中の人」の視点からいくつかのことをコメントしてみたい。過去にエントリにしたことがある内容も含まれるかもしれないし、「中の人」でなくても、経験あるベテランの方々であれば、ご存じのことばかりかもしれないが、それらの点はご海容をいただければと思う。

 

今回書こうとすることは煎じ詰めると次の3つになるのかもしれないと思う。

  • 営利企業である以上、経済合理性は重要。
  • 企業には意思決定プロセスがある。
  • 意思決定プロセスには複数の人間が関与し、その方々の素養はまちまち。

 

一つ目。営利企業であって、好むと好まざるに拘わらず税引後利益の最大化を目指すべきはずなので、ある意味で当然のことという見方があり得るだろう。企業内法務*3との関係では、さらにいくつかのことを留意しておく必要があるように思われる。

  • ここでいう経済合理性は単年度の話とは限らないし、限る必要はないということ。相手先との長期的なビジネス関係や、レピュテーションとかを気にしないといけないのは、それらが結局は長期的な視点での上記の意味での経済合理性に影響を及ぼす可能性があるから。これらを過度に言い立てるのも問題があるが、一切無視するのも危険と思われる。筋や道理というものも、一見すると経済合理性に関係ないようにみえるが、そういうものに反する話は、最近は「炎上」を通じて、前記と同様に、経済面で負の影響を及ぼす可能性があるために、無視しないほうが良いのではないかと考える。
  • 経済合理性の影響の仕方の一つの例としては、紛争の和解のタイミングとかに出るのがわかりやすいのかもしれない。紛争の和解に伴う損金発生のタイミングを税務的な観点で決める(益金が多いときに損金をぶつけて、結果としてコストであるその期の法人税の支払額を減らすことができる)という事例には接したことがある。
  • 費用については、多額になればなるほど、なぜその費用が出るかの説明は求められるし、支出自体はやむなしとしても削減の可能性は問われることがあるし、長期に支出が予測される場合は、当初時には予測が、その後には定期的なモニタリングが求められる。支出時期についても、特に決算期前後では議論が出る可能性がある。資金繰りの効率化も求められるところでは、前触れなく多額の支出が生じることは避けたいはずで、そう思えばそれほど不思議ではないのかもしれない。
    • 訴訟等の場合で外部の弁護士/事務所に依頼をする場合は、なぜその相手なのか(他ではダメなのか)、費用はどれくらいかかりそうか、それは削減できないのか、という話になることが多いと思われる。
      • 費用に関する問いへの一つの対応が「相見積」ということになろう*4。もちろん、見積は見積でしかなく、明示かどうかはさておき一定の前提を置いていて、事態の推移によっては変わり得るうえ、目先の見積だけで判断してよいのかというと、そのような単純な話とは限らないだろう。hourly chargeが高い先生でも専門性などの高さゆえに相談時間数が少なく済んだのであれば、最終的な支出額は減るかもしれないし、相談しても紛争に至ったケース(紛争対応に別途費用が出る上に中での対応の手間も出る)と、相談して紛争を防止できたケースを比較すれば、後者のほうが長期的なコストは少なく済むということは十分想定可能であろう*5
      • 依頼する相手先がなぜそこなのか、という点の説明については、従前のお付き合いの経験がない相手の場合に問題となることもある。専門性ということを重視すれば、今回依頼しようとする案件と同種の案件の実績などを示すことが必要となることもある。裏を返すと、外の先生方からすれば案件実績を守秘義務に抵触しない範囲で示すことは重要になるのではないかと考える。
    • また費用については、支出額に関する予測可能性がないのは、資金繰り等との関係で問題となることがあるので、弁護士費用等がタイムチャージであればキャップ(上限)を設ける等の対応が、「中の人」からすれば望ましいということになろう。さらに、そもそもタイムチャージが良いのかということも、状況次第では問題となり得るかもしれない*6
    • モニタリングという意味では、タイムチャージのときには、定期的に稼働内訳を求めて精査をして*7、無用な作業をしていないか、というチェックをしていないと法務はモニタリングをしていないのではないかという疑念を抱かれることになるかもしれない。また、請求書の支払いは、経理を通すことになるので、計算の合っていないような請求書を精査せずに回すと*8経理から突っ込みが来たりすることもあるし、経理から法務は何を見ているのか、と疑惑を招く可能性もある。そうなると支払についての無理も言いにくくなる。法務担当者が、最小限の手間で円滑に支払手続ができるような請求書であることも事務所のサービスの品質のうち、という見方もできよう。

 

二つ目は、企業の意思決定プロセスということは、企業内では無視できないし、企業内法務であれば、基本的にはそれに従うことを唱道すべき立場にあるはずで、なおさら無視できない*9

会社法的に言えば、企業を法的に拘束する意思決定をすることができるのは代表取締役(または担当の業務執行取締役等)ということになろうが、それらの方々ではすべての意思決定をするのは、企業内法務部門があるような大きさの企業になれば不可能であろう。そうなると、何らかの形でその下に意思決定権限を委ねることになろう。その権限は案件単位でなされることもあるかもしれないが*10、多くの場合はカテゴリーごとや金額*11によって意思決定の委任についての規定(別表でマトリクス状の詳細がつくのが通常であろう)があるだろう。内部統制の観点からは書面化*12が求められるはずなので。

そして、そうした規定に基づく判断権者*13がいるとしても、その判断権者にいきなり、意思決定を求めることができるかというと、そうとは限らない。そうした判断権者がそれなりの高位の方であれば、その方の給与も高いのが通常であり、そうであれば、判断するのに時間がかかるような「生煮え」の状態で持ち込んで、余計な手間をかけさせることは非効率であり、経済合理性に反する。そこで一定のスクリーニングが必要になることがあり、結果的に、時にスタンプラリーと揶揄されるような稟議のシステムが一定の合理性を持つことになろう。

意思決定が経営判断の原則の下で保護されるためには*14、提示すべき情報を提示し相応の説明をしたうえで判断権者に判断を求めることが肝要で*15、その意味では、法的な意思決定を求める場合には外部の弁護士の目からのインプットが必要になることがある。

ただし、法的な側面だけで企業が意思決定をすることは、おそらくほぼない。ビジネス面や経理財務税務的な側面でのインプットが必要になることがほとんどであろう。そう考えると、仮に外部の弁護士がそうした意思決定のための説明資料を作るとしても、作れるのはその一部でしかなく、残りの観点からの説明資料との整合性が問題となることもなろう。そのあたりは本来は「中の人」が頑張るべきところだが、何らかの事情で覚束ない場合は外からサポートすることもあるのかもしれない。

 

三つ目は、いくつかのことを含んでいる。

まず、前記の意思決定プロセスでは、様々な背景の方々が関与し、法務に関する意思決定であっても、その意思決定に関与する方々すべてが法務面での素養を十分に有しているとは限らないということ。その意味では法務面についての「素人」が含まれているということになる。そうなると、そういう方々も承認しやすい形で説明をして、企業としての意思決定に繋げることが求められる。法律の論理だけで考えるのではなく*16、筋や道理も踏まえての説明が必要とされることもある。論理でなく感情優先で物事を決めるような相手の場合は*17、そういう側面からの対応が求められることがあるかもしれない。人間なので、人の好き嫌いが絡むことも、ゼロではない。その当否はさておき、そういう場合もそういうことが足を引っ張らないようにする必要がある。その前提としてはそういう人間関係についての情報は持っておくほうがいいのは言うまでもない。

次に、意思決定プロセスは、前記の公式なものとは別に非公式なものもあり得て、「中の人」としては、その両者をケアすることが求められるということになろうか。公式の基準上は、社長決裁案件なのだが、実際には会長にも報告(または事実上の承認を得る)をしておくほうがいいとか、部長決裁だけどその上の担当役員まで話しておくべきとかそういう話である。前記のような垂直方向の話だけではなく、水平方向の対応が求められることもあるかもしれない。公式の承認をもらおうとしたら「あそこには話したのか」と言われてそれが済むまで承認がもらえないとかなるのであれば、対応しないわけにはいかないだろう。仮にそういうものがなかったとしても、意思決定の後、決定内容の実行過程まで考えて、円滑に進むようにするためには、その種の話が必要になるということもある。意思決定それ自体が目的ではなく、意思決定をした後に行動をするための意思決定であり、一つの意思決定に基づく行動が、社内で様々な処理を必要としたり、社外から様々な反応をされることが想定されるのであれば、一定程度そのような対応が必要になることも、専門分化、分業化が進む状況では必然だろう*18

 

…とりとめのない話になったが一通り頭に浮かんだことは書いたので今回はここまでとしたく。

 

次は、冬次郎@基本書シェアリサーチさんです!

*1:この表現が気に入っているのであえて使っていることを付言する。

*2:したがって、異論反論があり得るし、本エントリup時点のものなので、後で変わり得る。なお、いうまでもなく個人としての見解であり、現在過去未来の所属先とは関係がないし、そこにおけるこちらの言動との整合性も保証されるものではない。

*3:機能としてのそれであり、組織名称はさまざまであり得ることを付言しておく。

*4:内部統制の視点から、取得が求められることもあるだろう。

*5:そのあたりを事業部門などが理解せず、特に弁護士費用がその事業部門負担のときなどには問題となる可能性がある。説明して理解を求めるか、あきらめて法務負担にするか、という議論が生じることになるかもしれない。

*6:こちらが被告側で防戦一方で、前提となる情報の分析・理解に相応の時間がかかるようなケースだと、タイムチャージで計算すると、準備時点で相当チャージがかさむ可能性がある。訴額次第ではいわゆる旧日弁連基準のほうが「中の人」からすれば望ましいということになるかもしれない。

*7:過去の勤務先で、某外資系の事務所に稼働内訳を求めたら、全顧客分のデータにフィルタをかけたエクセルファイルをそのまま送ってきて、フィルタを解除したら全部のデータが見えてしまい、焦ったことがあった。削除の上こちらの分以外の情報のないものを再送してもらったのは言うまでもない。

*8:過去の勤務先で精査したら疑義のある稼働時間の計算がなされていたケースがあったことも付言しておく、5大事務所の一つだったのだが。

*9:緊急時の対応で100%遵守できない場合もあるだろうし、システム化されている場合に、システムを通した場合にその内容が内部的に開示されてしまう不具合が生じることもあり得るが、そういう場合は何らかの例外処理があることも多い。通常開示されるものが非開示になっているとそれ自体が一つの情報として憶測を生む可能性もあるので、そもそも紙ベースにしてシステムに乗せない、または、全部終わってから記録として乗せる形をとるなどの方法があり得るだろう。

*10:入札物のプロジェクトの場合に、札入れに行く人間に当該PJでの全権をゆだねる旨の委任状を出すようなケースに接したことがある。

*11:何をもってその「金額」とみるのかは別途検討の余地がある場合もあるかもしれないが。

*12:電磁的な代替物も含む。以下同じ。

*13:いうまでもなく、自然人でないケースもあり、取締会という会議体である場合もある。

*14:信頼の原則も併用することになることが多いだろう。

*15:さらにいえば、そのプロセスが書面化され、しかるべき期間保管され、その間アクセス可能であることが必要となることもあろう。

*16:いうまでもなく、法律の論理を軽視してよいという話ではない。

*17:そういう人間をそういう位置に置いておくことの当否は別途あるだろうが...。

*18:例えば訴訟を金銭の支払いによる訴訟上の和解で終結するとする。その場合、和解について、社内の基準に従い意思決定をするとして、それだけで足りるかというとそうではない。まず、和解金の支払いのための事務、出金手続きが必要となる。そのためにはそもそも誰に、いくら、どのようにして支払う必要があるのか、経理の担当者に和解調書の写しで示す必要があり、それに基づく社内の手続きがあるだろう。もちろん当該訴訟に外部弁護士を起用したのであれば、その報酬についても同様の手続きが生じるだろう。和解について、適時開示が必要となれば、開示周りの手続きがIR担当の部署などを通じて進むだろう。外部公表がなされるまたは自社がしなくても相手がするのであれば広報部門(IRと兼任の場合もあるかもしれない。)との連携が必要になろう。場合によっては社内への周知(得意先から営業への問い合わせなどが想定される場合等が想定されるだろう。)が必要になることもあるかもしれない。その準備も必要になるかもしれない。それとは別に当該訴訟について、公認会計士監査上焦点が当たっていたのであればそちらへの報告なども必要になることもあるかもしれない。