ジュリスト 2024年 08 月号

目を通した範囲で、呟いたことを基に感想を箇条書きでメモ。

  • 書評。
    「執行手続・倒産手続の研究」の書評は、同書における指摘の先駆性を実例を挙げて論証していて、その数だけでも、こちらのような門外漢でも凄さが伝わってくる気がした。
    「グローバル時代の法人課税と金融課税」も門外漢でよくわからないが、スケールの大きな話が論じられてるものと理解した。
  • 海外法律情報
    タイの刑事を含む裁判外の調停制度の導入、は一定の刑事事件が対象となっていることや刑事事件で私訴が認められているというのが興味深い。
    スウェーデンの刑事政策は大転換するのか、は確かに現状が定着すると大転換になりそうな内容ではある。どうなることやら。
  • 特別座談会。
    内容自体に有意義なものをいろいろと含んでいるのは確か。その点を争うつもりはないけど、何かひっかかる。企業内法務の立場の人が、商社と外資系ITの責任者というのが適切なのか、というのがまず気になる。この方々ならそりゃそれなりに語ってもらえば有益な記事にはなるだろうが。それと、そのお二方が偉すぎるのか、所属先が凄すぎるのか、分からないが、こちらのような人間が日々直面している様々な制約が、存在ないしものとして扱われているかのような印象も受けた。理想気体みたいな法務部という感じとでもいうべきか。そうした意味で、「すごいっすねー(棒)」という以外の反応をしたくなくなるような読後感が残った。
  • 海外進出する企業のための法務。海外企業との紛争解決条項の留意点ということで、裁判と仲裁の比較など。通り一遍のことが書いてあるが、読み手のレベルが読めない以上やむなしなのだろう。
  • 特集。物価高騰・賃上げへの対応。
    多田先生の文章は、労務費転嫁指針の対応で悩むところがあるので、特に興味深く拝読した。中で言及されている長澤先生の文章も目を通したいところ。
    定額減税・調整給付一体措置は、いろいろなやり方があるんだな(棒)という程度。IVでの指摘はなるほどと思った。
    賃上げ税制は、黒字企業を対象とすることから、黒字企業への「隠れた補助金」となるという指摘はなるほどと思う。
    春闘は新たな展開を迎えたのか—労使関係論の視点からは、春闘が果たしたと指摘される役割が想定外でやや驚いた。これまで特にその意味を考えたことがなかったのだが(汗)。
    最低賃金制度の機能と運用は、制度の詳細を知らなかった。公益委員の示す目安、というのは日本的な制度だなと感じた。
    特集は、知らなかった制度についての話が多く、興味深かった。

  • 判例速報・事例速報
    会社法の銀行取締役の任務懈怠責任(詳細略)の件は、問題の寄付の目的についての判断が難しそうに思われた。
    労働法の職種限定合意と配転命令権は、解説での、ジョブ型への移行によって職種限定などの明示の合意が増えれば黙示の合意の認められる余地が減るのではないかという指摘については、ただちにそうなるかは疑義ありかもしれない。
    独禁事例速報の電力会社とガス会社の間のガス供給等に関するカルテルの事例は、類似事例を引き合いに出した評者の批判が興味深い。
    知財のPBPクレームの明確性要件—セレコキシブ組成物事件判決は、普段特許周りの話に接しないので、審決取消訴訟と審判手続との関係性が興味深く感じた。
    租税の非適格分社型分割における承継資産負債の価額の合理性は、移転価格税制の趣旨を踏まえて、移転価格税制が対象とする取引と本件の取引との差異を指摘してる点が興味深く感じた。
  • SDGsと経済法は、労働問題・格差問題改善に経済法はどこまで貢献できるか、で、こういう視点はあまり持っていなかったので、なるほどと思いながら読む。公共工事・公共サービスの話も認識していなかった。
  • 時論。本号は掲載数が多い。
    人身傷害保険のもの(詳細略)は話についていけたかよくわからないが本来議論すべき事項の手前で終わった感があった。
    消費者裁判手続法のもの(詳細略)は、迅速な救済の確保からすれば最高裁の考え方もあり得るのではないかと感じた。大きな制度に育つ可能性は最初から厳重に封じられてるという指摘は納得。
    特例水準解消のための年金減額と憲法25条・29条は、憲法学説の一部と社会保障法学説の差異が興味深く感じた。いろいろ言っても「ない袖は振れない」(手元不如意の抗弁に近いか)という話でしかないように感じた。
    公的給付法制における内縁保護と同性パートナーの取り扱いは、本判決がもたらす示唆についてのコメントが興味深く感じた。
    特許法における過失の推定は、冒頭から大御所感がある文章だなと感じた(汗)。問題意識はわかるけど、書かれている解決策はどうなんだろうと思ったら、既にその辺りは指摘が出ていた。
  • 時の判例
    吸収合併消滅会社の件(詳細略)は、個人的には判旨に納得なところで、通説が異なる結論を取っている理由が気になった。
    独立行政法人日本芸術文化振興会の件(詳細略)は、本件要綱の性質を踏まえた本件処分の性質の指摘になるほどと思う。
  • 判例研究。
    経済法のマイナミ空港サービス事件の件は、競争の実質的制限の解釈に評釈で疑問を呈してる点はなるほどと思う。
    商事の株主の締出しを目的とする株式併合の効力が争われた事例は、少数株主の締出し目的の株式併合がありうるとすると、逆にどうなったら効力が否定されるのかが気になった。
    商事の医療法人における除名決議の無効は、解説で呈された判旨への疑問になるほどと思うなど。
    生命保険契約の無催告失効条項の消費者契約法10条該当性は、保険料払込免除特約が一定の範囲で常に適用される形が望ましいのではなかろうかと感じた。
    判断能力が低下している職員が行った退職の意思表示の有効性は、判断能力低下時の真意の判断方法についての解説でのコメントが興味深かったが、具体的にどうするのが良いかは判断が難しそうな気がした。
    パワハラの加害者から被害者への威迫等を理由とする懲戒処分は、評釈でのハラスメントの被害者等に対する接触・威迫行為についての解説が重要と感じた。
    株式の低額譲受けに対して法人税法22条2項が適用された事例は、一連の取引を一体としてみるという形が取れなかったのがなぜかが気になった。
    継続的不法行為と国際裁判管轄は、結論として裁判管轄を日本に認める必要があるとしてもその理屈付けについての批判が興味深かった。