ジュリスト 2024年 09 月号

例によって、目を通せた範囲で箇条書きで感想を呟いたことを基にメモ。

  • 時論。
    フリーランス新法の件は、フリーランス側の対応への言及があったのは、なるほどと思った。企業側なのでそちらの視点からしか見ていなかったので。
    O判事の弾劾裁判の件は、過去の弾劾裁判との比較が興味深かったし、結論に説得力がないという批判は納得だし、停職等の厳しい懲戒処分の必要性の指摘も賛成。かのJのやったことは非難に値するが、弁護士にもなれないというのはやはり処分としては重過ぎると思う。
    買取りサービスと景品表示法は、運用基準改正の経緯と如何なる行為を対象とした改正なのかの説明が丁寧で良いと感じた。基準の改正後の文言だけ見ても、パット見にわかりづらいので。
  • 判例速報。
    会社法の取締役会による退職慰労金の減額決定と取締役・会社の責任は、解説の最後での原判決と最判の違いの指摘が興味深く感じた。確かに最判の方が妥当なのではないかと感じた。
    労働法の総合職(配転に応じ得る者)のみを対象とする社宅制度と一般法理としての間接性差別の成否は、具体的にどこがどう問題だったのかがはっきりしない印象が残った。
    独禁法の漁連・漁協による系統外出荷の制限に対する排除措置命令は、こういう形で独禁法の問題になり得るのか、と思いながら読んだ。
    知財特許法74条1項に基づく移転登録手続請求がされた場合における民法94条2項類推適用の可否は、こういう場面でも94条2項の類推適用は使えるのか、と思いながら読む(使えないと確かに不都合が生じそうな場面ではあろうとも思った)。
    租税の青色申告承認取消処分と事前手続は、解説での宇賀反対意見の検討が興味深かった。宇賀先生はすごいなとあたらめて思った。
  • 特集は経済安全保障のゆくえ。渡部先生の制度制定の背景となる状況の概観のあとは、高井参事官の重要経済安保情報の保護及び活用に関する法律について。制定過程と概要がまとまっている。
    境田先生たちの実務的な論点解説は、前の原稿の公式解説的なものよりも、より実務レベルでの問題点の検討でセキュリティ・クリアランスの全体像や本法と特秘法との主な違いを図表で示しているのは分かりやすい。
    西岡先生、高津先生の特定重要物資の安定供給確保については、現下の情勢下では必要な制度だろうとは思うものの、対象となると色々大変そうな気がした。
    蔦先生、新井先生の基幹インフラ審査制度は、該当するとこれも大変そうだなという程度。関係のある業者の「中の人」ではないので、その程度。
    田村先生の特許出願非公開制度における損失補償金額の算定のあり方は、ご説ご尤もと思いつつも、損失の立証の手間を考えるとそもそも出願しない方が楽ではないかという印象を禁じ得ない。
    梅津先生たちの変容する輸出管理制度は、輸出管理制度に関わっていないので、知らない話ばかりだった(非メーカーでこの辺りからさらに縁遠くなった)。人権侵害を理由とする輸出管理とかはあまり考えたことがなかった。
    特集は、特段の接点のない制度の説明は興味深いと感じる一方で濫用による不利益を企業側が受ける危険があるので、運用面のモニタリングが重要だろうと思うけど、その前提としてそもそも情報公開がどこまでされるのか、というあたりが懸念材料という気がした。
  • 書評。
    行政法の時に関する効力』の書評は読みどころの丁寧な紹介という印象。
    三淵忠彦著、若林高子 = 本橋由紀編『世間と人間〔復刻版〕』の紹介は、最後に評者の個人サイトの紹介になっているのが何とも。
  • SDGsと経済法は、そうあってほしいこととそうであることとの折り合いのつけ方が難しいという印象。
  • 海外法律情報。
    中国の緊急対応法制の整備。緊急事態法制みたいな話は人権侵害の危険との関係が気になるがかの国の場合はもともと(以下略)。
    イタリヤの就任しない候補者の当選は、制度のバグみたいなものがなぜ今まで存在し続けているのかが気になった。
  • 海外進出する企業のための法務、の消費者問題への対応はダークパターンの話が興味深かった。
  • 時の判例の政務活動費等の件(詳細略)は、政務活動費の法的性質についてそういう理解なのか、と驚いた。
  • 判例研究。
    垂直型企業結合における情報共有は、評釈における情報遮断措置の実効性についての疑問の提示に納得。
    理事会決議を欠く学校法人理事長の専断的行為の効力は、評釈最後の部分の事実認定についての指摘は、指摘内容はなるほどと思うものの、そういう認定のされ方でいいのかは疑問に思った。
    会社法433条2項3号の拒絶事由があるとされた事例は、この事実関係ならそうなるのもやむなしだけど、対象会社で何らかの不正が疑われるような場合には株主側としてどういう対処をすればいいのか気になった。
    公益法人の顧問によるリベート(裏金)授受と民事法上の責任は、評釈での損害賠償額に関する批判になるほどと思うなど。
    1型糖尿病患者の障害等級2級該当性は、基準が明確でないところへのあてはめの仕方の分析になるほどと思う。
    医師の勤務日・勤務時間削減とシフト制は、シフト制という表現自体知らなかった。いずれにしても医師の方々は大変だなと思う。
    タックス・ヘイブン対策税制の趣旨と委任命令の適法性は、他の銀行での実施実績が回避可能性との判断の前提で認定されているという指摘にそりゃそうなるだろうなと思う。
    インターネット上での特許権侵害事案における属地主義の意義では、不法行為の問題として通則法17条で考えるあたりが興味深く感じた。
    管轄移転の請求が訴訟を遅延させる目的のみでされたことが明らかである場合における刑訴規則6条による訴訟手続の停止の要否は、裁判官視点だとそうなるよなという印象だった。