ジュリスト 2022年 2月号

例によって呟いたことを基に箇条書きで感想を。

  • サステナビリティの杜。ILOの方のインタビューだが。上から目線ぶりが鼻につく気がするのは気のせいだろうか。ポジショントークまじりなのだろうから仕方ないのかもしれないかもしれないが。

  • 海外法律情報。
    タイの件は、薬物事犯者で刑務所があふれるという話だが、あふれるほど摘発していたのかと驚く(汗)。
    スウェーデン選挙制度改革が、投票用紙は勝手に取って、投票を受け取るときに本人確認をするという仕組みそれ自体が興味深かった。

  • 判例速報。会社法関西スーパーの件の保全抗告審。判例集未公開とあるが、既報のとおり公開されている。「事前に議決権を行使した株主が本件総会に出席した場合には、事前の議決権行使は撤回され、本件総会の議場で改めて意思表示をする必要がある」というルールについての指摘が興味深い。この点については、今後は説明することでリスク回避がなされるという指摘を川井先生がされていたのにも納得
    労働判例速報は使用者によるヘイトスピーチの違法性に関する件。労基法3条違反にすべきという評者の批判は理解するけど、同条の文言から遠くなるから、直ちには無理な気がする。パワハラにおけるパワハラ防止義務みたいな、同条をサポートするような規定が、必要なのではなかろうか。
    独禁法事例速報は二重価格表示が景表法の有利誤認表示に該当するとされた事例。「通常価格」での販売実績がないことを認定しているのだけど、何があれば「通常価格」での販売実績があったという立証をしたことになるのか、売れなかったから価格を下げたときに疑義が生じないようにする方法が気になった。極端に言えば自社スタッフに金を渡して買ってもらった形を残せばOKということなのか、それと、自社スタッフが良いと思って普通に買ったのと区別が出来るのか、というあたりも気になるところ。
    知財判例速報は、発明の解決課題及び作用効果等に関する明細書の記載を参酌して特許請求の範囲に記載された用語を限定的に解釈した例だけど、この辺りはまったくの門外漢なので、そういうものか、と思って読む。対象の発明自体、興味深いなと思った程度。
    租税判例速報は、特別地方交付税の額の決定取消訴訟の「法律上の争訟」性を認めた件は、中間判決という制度が実際に使われているのをあまり見た記憶がないので、興味深く感じた。

  • 新・改正会社法セミナー。社外取締役(選任強制)。
    I選任義務付けの趣旨については、何だか歯切れが悪いように感じたのだが、気のせいだろうか。選任が企業価値にプラスに働くという実証研究はこと日本については存在しなかったし(存在しうるのかという問いもたつところではないか。)、その認識はわりに広くあったにも拘わらず導入されるにいたったと記憶していて、今なお釈然としないのだが、もはや訳が分からない気がする。そこまで強制しないといけなかったのかというのは今なお疑問。そこまでパターナリズムに基づく対応をするのであれば、論拠となった弊害が減少したかどうかについて、きちんと検証して、減少していないなら撤回すべきなのではないかと思うのだけど。何だか無責任な気がする。
    IIは社外取締役を欠いた取締役会決議の有効性。
    1はそもそも瑕疵があるのか、の検討。講学上の問題だという割り切りが最初にされているけど、蓋然性は低くても実務的に問題となり得る余地はあると思うので、そこまで割り切っていいのかは疑問が残った。学者の先生方の議論は、決議無効になる幅を狭く考える方向性があるように見えて、これはこれで実務から見れば、おそらくは好ましい見方なのではないかと感じる。
    2は最判44年12月2日判決(民集23.12.2396)との関係の検討。50年以上前の判決との整合性とかホントにいるの?という疑問がまずある。事情の変化があるだろうだから整合しなくても良いのではないかという気はする。
    3は決議の効力に影響を及ぼし得る事情の有無・内容。
    社外取締役の遅滞ない選任については、そんなに簡単に適任者が見つかる保障はないのではないし、すぐ就任に応じてくれるような人間が適任なのか疑義は残るのではなかろうか。投資サイドの方が選任出来た実例を挙げるが、たまたまそうなっただけではないのかという疑念は払拭されない。総会の段取りだって、それなりの大きさの企業の総会であれば、相応の時間はかかることが多いだろう。その間は一時取締役でしのぐのが筋だろうし、そうできないとおかしい気はする。決議の内容の考慮については、新日鉄の方のコメントに共感するし、藤田先生が言われる、議案の種類と緊急性の両方を考慮するということになるのではないか。瑕疵がある取締役会決議の効力の一般論への影響については、澤口先生の伝統的解釈への疑問から始まる議論は興味深い。個人的には、瑕疵ある取締役会決議の効力の一般論自体について、論旨は納得するもののどこからこういう議論が出てくるのかわからないと、受験生時代に感じたことを思い出した。
    IIIは社外取締役に選任された場合に果たすことが期待される役割の概要についての検討。実務家の先生方の違和感は言われてみると納得という感じ。監査役については、確かにそもそも期待される役割が決まっているところで何を書くのかというのはあり得る疑問なのだろう。
  • 連載知財法務は音楽の著作物。隣接権などの制度がややこしいという印象が強い。この分野の実務に関わった経験がないせいか、余計にややこしく感じる。
  • 及び腰のまま特集へ。
    増井先生の原稿は、国際課税ルールの見直しについての合意が歴史的な合意である点について、歴史的な経緯を2000年ごろまでさかのぼって解説するもの。今回の合意が突然現れたものではなく、いくつかの動きが重なり合って成り立つに至ったものであることがわかる。
    南先生の原稿は、デジタル課税についての解説。青写真*1の話なので、実際に制度がきちんと作れるかは不確定なところがあるし、あちこちに揉めそうな種がありそうな気がするけど、国際課税原則に変更をもたらすという意味で画期的に見えるのも確か。
    吉村先生の原稿は、法人の最低税率についてのルールに関するこれまでの経緯と現状の解説。ルールのアイデアが出たところで、そのアイデア通りに合意できるか、ルールを具体的な執行につなげられるか、については問題山積で、ここまで来たことの意義を軽んじるつもりはないにしても、まだ先は長いと感じた。
    青山先生の原稿は、日本企業への影響について経済団体などの意見から推測するもの。意見表明する前提として問題認識が必要なはずで、認識していない点で影響が生じることはあるものの、推測の仕方が興味深く感じた。
    本田先生の原稿は、新興国・途上国の動きの概観。特定の国が抜け穴になると実効性が欠ける話だから、こういった国への配慮も不可欠なはずなので、そういう意味でこういう国の影響力が大きくなるのも理解し易いところと感じた。
    特集は、今後に大きな影響をもたらしうる興味深い動きではあるので、特集する価値はあるのだろうけど、今後の不確実性が大きくて、どうなるかわからないという印象が強かった(そもそも碌に理解できていないと思うが)。
  • 時論は、労働協約の地域的格調適用。こういう制度を実際に使おうとする事例に初めて接したので、認められた実例があるのか、と素直に驚く(先例もあるようだが)。労働条件の事業所ごとのばらつきが少なかった事例とのことなので、この事例を契機に今後事例が増えるかというと、そこは疑問な気がした。
  • 時の判例
    最決令和3年3月18日(民集75.3.822)はプロ責法の話じゃないのは何故だろうかと思ったら1対1の電子メールだから、というのでプロ責法の不勉強を知る(汗)。通信の秘密とかが絡む話なので、立法で解決が望ましいのではないかと感じた。
    民法上の配偶者が中小企業退職金共済法14条1項1号にいう配偶者に当たらないとした件は、制度趣旨や似たような制度における判断からすれば、事実上の離婚状態にある相手に配偶者性を否定したのも妥当と感じる。
    弁護士職務基本規程57条に違反する訴訟行為につき相手方である当事者がその行為の排除を求めることができないとした件は、基本規程の内部規律性からすればそうなっても仕方ないんだろうけど、それでいいのかという気がした。
    B型肝炎除斥期間の起算点が問題となった件(最判R3.4.26民集75.4搭載予定)は、異質な損害は別個の損害として個別に除斥期間の起算点を考えるというのは抽象的に理解できる気がするけど、何をもって異質とするのかは解説からは良くわからなかったが、この辺りは事例ごとに考えることになるのだろう。
    被災者生活再建支援法に基づく被災者生活再建支援金の支給決定の取消が認められた事例(最判R3.6.4民集75.7.登載予定)は、法律論としては判旨のような議論もあり得るのかもしれないけど、一旦支給を受けた側の不利益の考慮が十分されたのか、結果の妥当性も含めて疑問。
  • 判例研究。
    経済法の超音波内視鏡と超音波観測装置の混合型企業結合の件は、審査結果が評釈で突っ込まれまくっていたが、評釈の内容からすればそうだろうなという印象。混合型企業結合の審査の難しさの表れかというとそういう話ではないような気がしたがどうなんだろう。
    商事の現実取引による相場操縦罪の構成要件の件は、企業グループ内の別法人の従業員の違反行為を法人に帰責させる判断基準が示された事例ということになるが、規範が抽象的すぎて、正直よくわからないと感じた。仕方がないのだろうとは思うが。
    商事の少数株主による株主総会招集許可の申立ての利益と特段の事情の件は、幸か不幸かこの種の事案に直接関与した経験がないので、訴訟過程における当事者の動きの意味の分かりづらいところがあり、その点を説明してくれる解説が興味深い。
    商事の先使用権の成立要件についての件は、類似の裁判例との比較で本件の微妙さが浮き彫りになるのが興味深いし、発明がなされる時間軸を踏まえた評釈の批判も当たっている部分があると感じた。
    労働判例の新たな労働条件での再締結申込拒否を理由とする雇止めを適法とした件は、評釈で、留保付承諾が出来ないのであれば、労働者の成績不良などによる変更解約告知も通常の解雇・雇止めに近い枠組みで判断が望ましいとの指摘に賛成。
    業務委託契約における英会話講師の労働者性の事件は、某英会話学校の先生の待遇が思った以上に過酷なのに驚く。
    法人が資本の払戻しを行った場合における法人税法施行令23条1項3号の法適合性の件は、話についていけなかったものの、最高裁が結論が変わらないのに上告を認めたうえで、令23条1項3号に法人税法からの委任の範囲の逸脱があり、その改正を求める趣旨と推測されるとの指摘は興味深く感じた。
    カリフォルニア州判決が手続的控除に反するとして執行が拒絶された事例については、判決内容を了知する実質的な機会の有無を問題にするなら、カリフォルニア州の制度の特性(手続上の懈怠への制裁として欠席当事者への裁判書類不送達を許容)や被告側の帰責性を考慮していないのは問題であるとの評者の指摘に納得。


*1:というと行政法の某事件を必然的に思い出すが