レトリックと詭弁 ─禁断の議論術講座 (ちくま文庫)/ 香西 秀信 (著)

一通り目を通したので感想をメモ。一読して手元に置いておいてもよい一冊。

 

レトリックを専門とする著者が書いた一般向けのレトリックの本、ということになろうか。実際の文章などを例に出して、レトリックの使い方を説明している。「まえがき」からしてかなり理屈っぽくかつ皮肉に満ちていて*1、なかなか読むのに骨が折れるかと思った。もっとも、取り上げている文章などがやや古い感があり*2、20代、30代の方が読んでも理解しづらいところはあるかもしれないとは思うものの*3、文章自体は平易で、分量も本文が200頁に満たないので、通読するのはそれほど負担ではなかった。個人的な興味に沿う内容だったことも、通読する際の負担感軽減に寄与しているのもあったが。

 

本書のご利益は、自分がレトリックを駆使できるようになるというよりも*4、駆使のされ方を理解することで、レトリックが駆使された際への対応の仕方を理解し、対応のしにくさがもたらすストレスを軽減するというあたりのようだ。流石にこの程度の分量の本では多くは期待できないだろうから、妥当なのだろうし、そういう需要はそれなりにあるのだろう。知らないのと知っているのとでは気持ちの持ちようも変わってくるというところは多分にあるだろう。

 

意識的なものかどうかはさておき、こちらも本書で書いているようなレトリックを弄することもないではない。また、相手にレトリックを弄されると、特に効果的な「返し」ができないと、腹がたつこともある*5。そういう意味で、相手から投げかけられる言辞の中に含まれるレトリックに対してより自覚的になることで、確かに精神衛生は保たれるような気がする。そこで、本書を手元においておいて、要所要所で確認していくことで、レトリックへの耐性を強化することも良いのではないかと思う。

*1:そこまで言う必要があるかと感じたところも多少はあった。

*2:戦後の全面講和論等は、50代のこちらにとってすら、歴史上の出来事でしかなく、その関連で取り上げられている文章等も、今となっては文脈が理解しづらいものがあった。

*3:そういう意味で、引き合いに出している内容は、より今時のものにしていただいた方が、読者にとってより理解しやすいものになるのではないかと思う。

*4:そういうことができるようになるのは書籍だけでは足りないだろう。何よりも、自分で他人に対して試してみる形での実践が必要だろう。

*5:そうなると、当然のことながら、不用意な応対をして事態をややこしくする危険も出てくる。