少年法入門 (岩波新書 新赤版 1881) / 廣瀬 健二 (著)

この分野の最新の一般向け入門書、というところか。こちらも現職では製造現場等に配属される前提で高校卒で入社する(入社時点では未成年ということになる)従業員もおり、この分野について無縁ではいられないかもしれない。ざっと目をとおした感想をメモしてみる。

 

裁判官として、または研究者として少年法に関わり、今般の法改正には法制審委員でもあった著者が現状の少年法の規定・運用、歴史・他国との比較*1・今後の展望などを解説したもの。前記の著者の経歴などからすれば、この種の本を書くのには適任ということになるのだろう。巻末には、少ないながらも著者の基本書も含め文献案内もあるので、この分野について学ぶとっかかりとしても使えるのではなかろうか。

 

一人前の大人として扱うには、未熟な少年の犯罪行為等については、大人とは別異の扱いがされていて、そこには教育的配慮というべき特殊な配慮がなされている(北欧のように大人に対しても同様の配慮がされている場合もあるが)ところは、一般論としては理解しているし、修習でもほんの少しだけ少年事件に接したが、実際の事件に関与したことはないので、それ以上のことを詳しく知っているわけではない。

 

本書では、法制度の解説では、殆どすべて、成人に対するものの解説と比較してなされている。一般の方々向けということからすれば、成人に対する内容を読者が知っているとは限らないから、妥当な取り扱いだろう。文章自体は平易で、面倒くさく写りかねない条文番号なども省略されているのも、同様に妥当なのだろう。平坦な解説にならないよう、これまでの著者の知見(裁判実務についてのものであったり、海外を視察したときの内容だったりするが)を取り交ぜているので、読み手を飽きさせないのではないかと感じた。

 

もっとも興味深いのは、最近の改正について、賛成・反対からの議論の検討。犯罪対策の要請と少年の特性に応じた教育の側面の調和が対立しているのがその内実という指摘は納得するところだし、両者の中間的なところで改正案がまとまったことについての好意的な評価も納得できるところ。

 

一つ気になったのは、犯罪少年の「その先」への配慮が優先されていて(それ自体が必ずしも不当とは言い難い)、被害者感情についての対応に関しての言及が少なかったところ。被害者にとってみれば、犯人の年齢がいくつであろうと被害とは関係ないという側面があると思うので、少年であることに起因して、大人の犯人よりも「緩やかな」処分になることが、被害者側から見て、支持されうるのか、疑問なしとは言えない気がすした。

#up後に一部表現を修正した。

 

*1:諸外国の法制を少年特別手続型・少年刑事裁判型・福祉包摂型に分類されているのだけど、個人的には、解説を読んでも最初の2者の区別が今一つわかりづらい気がした。