ケースから考える内部統制システムの構築 / 中村 直人 (著)

所謂J-SOX対応以外の内部統制って何するの?という疑問があったので(詳細は略)、丸沼で色々本を探した挙句に買った一冊。出てから時間が経過しているものの、上記の疑問に答える本としては、現時点では、最適ではないかと思われる。

 

内部統制というとJ-SOX対応の話がメインになりがち(それはそれで重要だとは思うけど)に見えて、それ以外の部分の話をきちんと書いている本がうまく見つけられなかったのだけど、本書は、会社法周りの分野で高名な著者が、条文・裁判例判例を検討しながら、内部統制システム全体をどう構築すべきかについて解説をしているもの。中村先生の他の著書と同様に、平易な語り口が文章の上手さを感じさせる上に、コンパクトに解説がまとめられていて、読みやすい*1のも、流石中村先生と感服する。内容としては、第1章で、内部統制のあるべき水準について、日本システム技術事件で示された水準と、その後の裁判例における当該水準の定着状況の解説がなされているのと、第2章で最近の裁判例の蓄積を受けて、あるべき内部統制の全体像が、ある程度網羅的な形で示されていること、その双方が有用で印象的だった。

 

本書は、2011年に出た本の改訂版で、そちらも目を通していたのだが、すっかり内容を忘れていたのに驚いた(駄目)。書棚を整理した際に当該書籍を処分した(外資に転職してそのあたりに係わる可能性が減ったからというのが大きい。本棚は有限なので)のも一因だが。

 

現時点のこちらの視点で見ると、こちらの今の立ち位置のせいもあって、グローバル化の中での海外子会社との関係について、法制が異なる国の子会社に対して、日本国内の子会社に対するのと同じ形で対応できるのか、というあたりも、著者流の解説(または著者の事務所の他の先生の解説)が欲しい気がした。そういう話になると渉外系の事務所の解説になりがちだけど、著者(または著者の事務所の他の先生)の解説を伺ってみたいと感じる。著者の事務所であれば海外子会社のある日系企業のクライアントもいてそういうところからの相談もあるはずだから、一定の分析はされていると思うので。

 

内部統制の在り方も、現下の状況では、業務のやり方・意思疎通の方法などに影響が生じていることを踏まえると、一定の変容を迫られているのではないかと思うので、次の改訂時にはそのあたりも踏まえた叙述が、裁判例判例の蓄積の更新と共に、加筆されることを希望する。

*1:そのはずなのに、今回はなぜか読むのに時間がかかってしまった。これはこちらの事情によるものだが...。