キャリアプランニングのための企業法務弁護士入門 / 松尾 剛行 (著)

著者の松尾先生からご恵投いただいた。ありがとうございました。一通り目を通したので感想をメモしてみる。なお、前記の経緯から、エントリの内容については、多少割り引いて読んでいただく方が無難かもしれない。ともあれ、企業法務に関係するのであれば、「キャリアデザインのための企業法務入門」共々目を通しておいて良い一冊と考える。

 

多作な実務家の松尾先生が、所属事務所内のオンボーディングのための資料を基に、企業法務に関与する弁護士向けに、弁護士になるまでに学んできたことの活かし方や新たに習得すべき事項の概略的な案内図を示すべく書かれた本というところ。冒頭2章の総論の後で各論として、予防法務、臨床法務、戦略法務、公共政策法務行政法務、刑事法務、国際法務について解説し、終章では今後の展望について説かれている。

 

それぞれの分野について、一定の経験をされていて、企業法務という意味では企業内への出向も経験されている。経験も踏まえてそれぞれの箇所で解説がなされていて、なるほどと思うところも多々ある。そもそもそれだけの経験をしているというだけでも驚きだが、米国および中国のロースクールへの留学経験やエグゼクティブMBAコースの修了もされたり、IT系の事件への対応過程でIT系の資格も取るなど、実務家になられてからも研鑽を積まれていて、さらに執筆活動(脚注で出てくる著書・論文の数も驚くべきものがあると感じる。)もされているとなると、こちらのような人間からすれば、八面六臂というしかない活躍ぶりである。中の人が複数名いるのではないかという説がささやかれるのも理解可能な所だろう。

 

それぞれの分野で経験のあるかたが単独で、各分野についてコンパクトに見通し良く解説をしている*1ので、修習生の方々がキャリアについて考える際や、考えたうえで企業法務分野に進まれる際に目を通すと良いのではないかと考える。また、依頼者サイドに立つ企業内法務の方々にとっても、依頼先の弁護士の「作られ方」*2についての理解を深めるうえで、目を通しておくことは有益と考える。

 

…と、ほめるだけでも良いのだけど、いくつか触れておいてもらった方が良いのではないかと考えた点があるので、メモしてみる。

 

まずは、弁護士本人のリスク管理というあたり。弁護士倫理周りの話や、いわゆるブラック事務所に入った時の対応策というあたりへの記載は多少なりともあった方がよかったのではないか。この点は、著者の事務所がそういうブラック事務所ではなく、倫理的に内部でチェックがはいる体制があるからこそ記載がなされなかったのだろうか。

 

次に、入門というからには、それぞれの分野でまずは紐解くべき書籍の案内などがあってもよかったのではないか。企業法務系の事務所でも、OJTの名の下で、実質放置みたいな場合もないとは言えないのではないかと思うので。

 

*1:前記企業法務入門及び「ChatGPTと法律実務」(こちらもご恵投いただいているが目を通せていない...。)の記載も適宜参照されており、そのことにより省略可能な個所は記載を省略し、全体をコンパクトにすることに寄与している。なので、この2冊とまとめて読むと、キャリア展開への見通しがさらに良くなるものと思われる。

*2:こういう表現が適切かは不明だが