若手弁護士・法務担当者のための会計入門 / 樋口 達 (著)

一通り目を通したので感想をメモ。この分野に馴染みのない弁護士・法務担当者が最初に手に取る入門書としては良いのではないかと感じた。「株式実務担当者のための会計・金商法・税法の基礎知識」の後に読むのに適しているのかもしれない。

 

短時間で通読できるくらいのコンパクトさでまとめられた*1、会計の入門書であり、内容的にはそれほど奇をてらった形というところではないのだが*2、個人的に目を引いたのは次の諸点。

  • 弁護士・法務担当者が会計を学ぶ意義について、会計知識が有用な場面を冒頭に提示して説明してくれているところ。なんとなく有用そうなのは想像しやすいが、具体的に示された方が、更に学ぶ気になると思われる。
  • 会計上の決まりごとの条文的な根拠が示されているところ。決まりごとの条文?上の根拠があるならそれも押さえられた方が良いと思いはするものの*3、いちいち調べるのも正直手間。会社法会社法施行規則・金商法はまだいいとして*4、会社計算規則とか企業会計原則あたりは、普段目にする機会が少ないこともあり、億劫さが増す。そういう意味で、これらを示してくれているのは、手間が省けて有難い。
  • 専門用語の説明の丁寧さ。コラムで説明しているものも含め、用語の説明は丁寧と感じた。
  • 章ごとに、この章で何を学ぶかの予告があったうえで、末尾にまとめ、があるのも学習効果としては良いのではないか。
  • あともう一つ、p51のBSとPLの関係を示した図は、支払利息や内部留保の示し方も含め、秀逸と感じた。

経営法友会での講義が基になっているということもあって、内容的には、よく練られていると感じた。そういう次第で、この分野にあまり馴染みのない弁護士・法務担当者が最初に手に取る本としては良いのではないかと思う*5

*1:全体で160頁余

*2:財務諸表相互の関係への理解を深める意味では、個別の取引を積み上げて財務諸表の作成まで順を追って示してくれる、財務3表一体理解法のシリーズ(最近改訂されたが、こちらが目を通したのは改訂前のもの)の方が優れていると思う。

*3:こう思うのは弁護士や法務担当者だけなのかもしれないが。

*4:金商法については、正直条文を見るだけでもうんざりするのも確かだが。

*5:一点残念と感じた点を挙げれば、この本の次に読むべき本として、簿記3級の本、という程度の指定しかないところか。参考文献で桜井久勝教授の2冊の本が挙げられていて、それぞれを見たわけではないが、定評ある本のようであるものの、分量もそれなりにあって、弁護士や法務担当者が必ずしもその分野の専門家になろうとしているわけではないことを考えると、本書の次に取り組むのは厳しいのではないかと感じる。