株式実務担当者のための会計・金商法・税法の基礎知識 / 中村 慎二 (著)

取り急ぎざっと目を通したの感想をメモ。事業会社*1の専門担当者でない人が書かれている分野について、知っておくべき優先順位の高い範囲の概要を記した書籍という意味では、手元にあれば有用な一冊と感じる。

 

会計・金商法・税法の分野は、事業会社の法務担当者にとっては、株式実務担当者ではなくても、それ自体を専門に扱うことはないものの、一定の知識があると、有用と思われる、周辺的な分野という理解が可能と思われる。登記*2社会保険あたりもおなじ括りに入れることができるのではないかと思う。そのうえ、それぞれの領域は広範であるものの、前記の法務担当者の立ち位置からすれば、それぞれについて知っているべき箇所は多くないようにも見える。そこで、どの部分をどこまで知っておくかというところが重要という気がする。しかし、その範囲に絞った本がこれまであまり見当たらなかった*3

 

本書は、四六判で本文が200頁余とコンパクトな紙幅に、かなり範囲を絞って、これら3つの分野についての基礎的な内容を説明している*4。紙幅が限られているので、何を語って何を語らないかについての割り切りが一つのポイントだろう。その判断の当否については、判断できるだけの立場にあるとは言い難いが、一つの提案としては、意義があるのではなかろうか。

 

いくつか特に印象に残ったことを箇条書きでメモしてみる。

  • 上記のような次第なので、網羅性はなく、株式実務担当者であっても、実務で使うところをカバーしきれていない可能性が残るのではなかろうか。そういう意味でも、「この先」への読書案内のようなものはあるべきだったのではないかと感じた*5
  • 会計については、計算の目的についての説明がなるほどと思った。連結と単体で目的が異なるというのは、言われてみれば納得なのだが、これまで考えたことがなかったので。簿記を前提にしていない解説も、簿記が苦手な読者(こちらもそれほど得意というわけではない...。)のことを考えると良いことなのだろう。
  • 金商法については、残りの2つの分野の記載よりもわかりやすく感じた。開示については、金商法ベースの議論とは別に証券取引所の規則に基づく部分もあるので、そちらについても併せて解説してほしかったが、そこまでやると紙幅が足りないということなのだろう。
  • 税務については、こちらの知識不足で理解が追い付かないところが多かったが、M&Aの適格合併についての説明は、分かりやすいと感じた。

*1:金商法による業規制を受ける業種でないという程度の意味。以下同じ。

*2:こちらについては、登記法入門が良い入門書になっていると感じる。

*3:税務、会計、登記、戸籍については弁護士の周辺学(第2版)が、金商法については、企業法務のための金融商品取引法(第2版)が、それぞれ該当すると言えるだろう。後者は手元にあるが積読の山の中...。

*4:コラム部分に、今日の実務的な問題についての記載があり、これはこれで興味深い。

*5:先の脚注に上げた各書籍が候補になるのかもしれないが...。