弁護士になった「その先」のこと。 / 中村 直人 (著), 山田 和彦 (著)

漸く目を通したので感想をメモ。

 

出た途端に主に事務所のパートナークラスの先生方が絶賛していたこともあり、一応買ってみたものの、絶賛の内容が、アソの立場からすると、読む気を削ぐ要素を感じないでもなかったので、しばらく放置していたのだが、積読のプレッシャー?を感じたのと*1、やはり、戦士さんをはじめ、真に尊敬している複数の先達の絶賛は脳裏にあったので、漸く目を通した次第。

 

内容の紹介は、先の戦士さんのエントリを見てもらうのが適切*2なのでそちらをご覧いただければと思う。一言でいえば、企業法務系の一流ブティックファームの解説者が、所内研修で話したものを反訳してレジュメと共に掲載したもの。もともと中村先生の文章自体がわかりやすいうえに、話し言葉の反訳なので、読みやすいし、分量もそれほどない*3ので、一通り目を通すのにはそれほど時間を要さないだろう。

 

内容的には、惹句にあるように、「最初に読むべき本」と言ってもそれほど大きな間違いはないのだろう。特に職歴がないままに弁護士業務を始めるのであれば。ただ、何も留保もなしに読むのは、個人的には疑義が残る。

 

それは単純な話で、内容は、あくまでも、かの事務所ー会社法・金商法というドメスティックな要素の強い分野に特化した企業法務系の事務所ーの研修でしかなく*4、かの事務所と同じ状況に置かれていない事務所にいる人間にとっては、個々の記載よりも、その背後にある考え方を咀嚼したうえで、自分の業務に活用すべきなのだろうと思うから。他方で、特に新卒(こういう言い方が適切かどうかはさておき)1年目の弁護士では、そのような咀嚼をするうえで必要な情報を持たない可能性があり、情報のないところで考えても、自身にとっての適切な答えにたどり着けるかというと覚束ないように思う*5

 

例えば、9時ー17時で事務所にいてほしいというような話は、渉外系の業務が多いところではあまり役に立たないだろう。時差のあるところとの回線経由の会議などはそういう話とは関係ないだろうし。また、英語についてもそれほど積極的でないのは、単にかの事務所がドメスティックな分野に特化した事務所だからだろう。そういうところは、適宜「補正」をして読む必要があると思うわけだ。

 

とはいえ、既に戦士さんから指摘のあったように、弁護士に限らず、弁護士に依頼する企業法務の担当者にとっても、仕事の進め方に関しては参考になるところは多いと思う。個人的には、調査の仕方、仕事の進め方、キャリアの積み方、については、得るところがあったと感じた次第。それぞれの状況に応じて、「補正」をしつつ、参考に出来るところを活かしていくだけでも有用な本になるのではないか、そういう気がした。 

 

 

 

 

 

 

*1:個人的には、こういうのは紙の本でないと感じない。「とりあえず買う」はその意味では正しい(予算と置く場所を無視すれば、だが)。

*2:後追いでエントリを書くとこういう手抜きができるのが味噌という説もあるが、それでいいのかという説もある…。

*3:160頁弱なうえに、詳し目のレジュメと話した内容が重なっている(なぜ重なっているかについても示唆がある)ので、正味の分量はその2/3くらいではなかろうか

*4:ある意味でかの事務所にとっては、最強のリクルーティングの道具なのかもしれず、そういう意味では事務所にとっても出版することに利点があるのかもしれない。

*5:その意味で、この本を渡して「読んでおいて」というのは、誤導の危険性もあると思う。ついでにいうと、かの事務所では、アソシエイトは個人事件受任自由・事務所の施設・秘書も自由に使用可能なうえ、「上納金」はなしという。留学も1年目の費用は出すとある。「読んでおいて」と渡しておいて、アソシエイトが自分の事務所でも同じと理解したら、どうするのだろうという気もするのだが…