ジュリスト 2023年 05 月号

呟いたことを基に感想を箇条書きでメモ。

(後で補充する前提で一旦upする。)

  • 海外法律情報。
    韓国の満年齢への統一を目指す法改正、は、年齢計算に3つの方法が併存していることや統一の試みがかつて挫折したことに驚く。文化の違いを感じる。
    ロシアの伝統的価値の保護に関する国家制作の基礎の策定は、どこかで見たような気がする流れであり、昨今の情勢との関係で行方が気になるところ。
  • 判例速報。
    会社法の総数引受契約の無効と募集株式発行の不存在の件は、発行に関する取締役会決議が無効となった時に、募集株式発行の不存在としたロジックが興味深い。一定の事情もあってのことだけど、この事情は実質非公開会社であれば、他にも当てはまる事例がありそうな気がした。
    労働判例速報の賃金体系変更により導入された手当の割増賃金該当性の件は、実態を変えずに制度上のつじつま合わせをしようとしていたのが破綻した事例のように見え、トラック運転手の労働時間が洒落にならない状況になっているのが背後にあるようと思われるのが、難しいところではないかと感じた。
    独禁法事例速報の卸売業者に対する販売価格指示が独禁法に違反しないとされた事例は、事案と公取の回答を見ると当たり前にも見えたが、指針(7)の読み解き方の素材として適切として取り上げられたのかもしれない。白石先生の解説は、指針上書かれていない部分のものも含めなるほどと唸りながら読む。
    知財判例速報のスクリーンショットによるツイートの引用は、適法な引用にならないという部分については、結局どうすればよかったのかというところが気になった。
    租税判例速報のウエブサイト上の出品サービスに係る消費税法上の役務の提供地の件は、PEの存在を勘案する主張が取られなかったあたりの解説が興味深く感じた。PEがあれば勘案されると思っていたので(単にこちらの不勉強なだけなのだろうが)。
  • 書評は泉水先生の独禁法の単著について。丸沼で手にとって分厚いので、腰が引けたが、武田先生の書評を見ると、面白そうには見える(とはいえ手にする勇気が出ないが)。
  • 判例研究。
    経済法のもの(事例名が長いので省略)は評釈の最後での指摘に尽きるかなと感じた。
    商事の完全海外子会社の損害に対する親会社取締役の損害賠償責任の件は、完全子会社の損害を完全親会社の損害とみなしてよいかというあたりの解説はなるほどそういうものかと思いつつ読む。
    商事の内部統制の有効性評価等の業務における監査法人の義務の件は、判旨にしても解説にしても、制約条件の中でどこまでのことを求めるのが妥当かということの議論をしているように見えた。監査のことは知らないので、勘違いかもしれないけど。
    商事判例研究の音楽教室におえる演奏権侵害の件は、カラオケ法理と本件の判決との整合性についての批判が面白く感じた*1
    労働判例研究のパワハラへの分限免職処分の有効性の件は実務家による評釈で、実務目線での分析が明快でよかった。
    労働判例新型コロナウイルス感染拡大を契機とする休業中の休業手当支払請求の可否については、経営者からすれば判断が難しい状況だったと思うがそれも含めて経営なんだろうなと思った。
    租税判例研究の外国子会社合算税制における「主たる事業」の意義は、話についていけていない気がして、面倒な話だなとため息。
    渉外判例研究の取締役の任務懈怠に基づく損害賠償請求をめぐる国際裁判管轄と準拠法は、貸金返還請求権の準拠法決定の検討の不備と貸し付けに関する代理権授与に関する準拠法決定の検討の不備についての指摘が興味深く感じた。いちいち検討するのは手間だとは思うけど。
    刑事判例研究の科刑上一罪の関係にある数罪のいずれにも選択系として罰金刑の定めがあるときの罰金刑の多額については、つじつまの合わせ方が難しいという感想しか持てなかった。刑事の経験がないからこの論点の重みがよくわからない気がした。
  • 時の判例
    最決R4.6.20は、決定の論理はわからないではないが、事案の解決としてこれでよいのかと言われると疑問が残る。被保佐人の財産が無用に飛翔されてしまうのを防ごうとして、保佐人申立と保全申し立てをしても、保全が適正になされたのか自分では確認手段がないということになりかねないので(個々の申立人の個別的な判断で適否を判断されても困るから、裁判所がその辺見てるからOKでしょ、ということなのだろうが、それでいいのかというとそこまで裁判所が信頼できるのかという問題があるわけで…。)。
    刑事の最決R3.6.28(刑集75.7.909)は、一事不再理効の及ぶ時間的な範囲については、被告人も上告趣意書を出した、とある点が印象的。弁護人とは別にということなのだろうか。
  • 海外進出する企業のための法務は新連載。進出のための調査が最後に予定されているが、撤退の話がなくて良いのかというのは疑問。初回は、そう来るかという内容で、米国の実務がその他でも一定程度行われているあたりが面白かった。
  • 「人権尊重ガイドライン」を読み解くは、それぞれは一見もっともに見えても全体としては無理ゲーになっていないかという印象を禁じえない。まあ、お題目を馬鹿正直に墨守しないということなのかもしれないが。
  • 実務法曹のための分析手法の基礎知識は、統計とかがわからないので話についていけないが藤田先生の解説はわかりやすく感じた。裁判所に専門的な知見を求める旨の記載は、どうかなと思ったけど。裁判所に専門的な知見を求め始めると、キリがなくなりそうな気がするし。
  • 実践知財法務は、秘密保持契約における知的財産保護を踏まえた管理条項。「従業員は「原則」として、他社に当該営業秘密をどのように開示をしたか(カッコ内省略)を認識している」という言説についてはどこまでその「原則」が当てはまるのかというところに疑義を禁じえない*2
  • Hot issueはステマ規制の話。冒頭のベン図はこれでいいのかという気がした。ステマ規制の必要性の説明はわかりやすく感じた。消費者庁の方は、ザ・お役人という感じがしたし、役所性善説的で、事業者側の方と話が微妙に噛み合っていないような気がしたけどどうだったのだろう。
  • 最後に特集。知財戦略本部の20年の歩みとこれから。記事数も多く力が入っている感じがする。
    山本先生のスタートアップ・大学における知財マネジメントは、特に大学については、ご指摘は尤もとしても、諸々リソースが足らないところで、このとおりやるのは相当厳しいのではないかと感じた。
    相良先生の証拠収集手続から見た知財紛争処理制度の歩みと課題は、制度は色々拡充されていても、それほど実際の利用が伸びていないのにやや驚く。制度自体のさらなる見直しが必要ということなのだろうか。
    高部元知財高裁所長の知財高裁の役割の記事は、国際化の対応のあたりは特に興味深く感じた。
    生貝先生のデジタルアーカイブの推進の原稿は、国のこうした事業について無知だったので、なるほどと思いながら読む。実際にどこまでできているのかはアーカイブを見てみないと分からないが。
    上野先生の原稿はこの20年の著作権法の権利制限規定をめぐる議論の振り返り。全然フォローできていなかったのを反省。
    澤田先生の原稿は、審議中の新制度の紹介だけど、発想は良いと思うけど、どこまでうまく機能する制度に作り上げられるかはよくわからない気がした。
    小坂先生の原稿は海賊版対策の進展を振り返りなどだけど、権利者側の代理人から見た現行制度の問題点の指摘が具体的で面白く感じた。
    読み終えたところで、特集としても通常よりもあつい(熱い・厚い)という感じがした。

*1:話はそれるが、カラオケ法理については、どうしても自分のカラオケボックスでの歌唱の仕方との対比で疑義を覚えるところがあるのだが、自分の使い方が世間とずれていることも理解しているので、なんだか微妙な気がする

*2:著者の所属事務所を起用するだけのリソースのあるクライアントの範囲が限定的なことがかの言説の形成にどのような影響を与えているのかも気になる。