人質司法 (角川新書) / 高野 隆 (著)

本屋で見つけて買っていたものに、ざっとではあるが、目を通したので感想をメモ。

 

ゴーン被告の弁護人も務めた高名な刑事弁護士*1が現行の刑事司法の問題点について書いた本。

 

著者らが弁護人として経験したゴーン被告の事件における検察・裁判所の対応に見られるように*2、刑事司法の問題点は根深いと感じざるを得ない。著者は、刑訴法の立法過程及び現行刑訴法の基になった米法及びさらにその基となったコモンローの歴史も紐解いて、何が問題かを解いている。平易な語り口で順を追って論を進めてくれているので、一般の方にとっても分かりやすいのではないかと思うが、こちらも一応弁護士で一定の予備知識があって読んでいるので、この点については、正直評価しづらいところがある。

 

指摘されている問題を抱えた刑事司法のありように対する著者たちの奮闘ぶり、については、ある意味で掟破り*3、という表現が相応しい「代用監獄作戦」も含め、こちらとしてはただ敬服するしかない。

 

しかしながら、この状況をどうやったら打破できるのか、を考えると、暗澹たる気分にならざるを得ない。残念ながら司法制度の中で自律的に解決することは望み薄だろう。立法に期待するしかないが、それもどこまで期待できるか分からない。推定無罪の原則がマスコミによっても尊重されず、被疑者段階でもバッシングが始まってしまう世論のあり様を考えると特に。そのあたりを変えていくところから始めるしかないのかもしれない。世論に対しては立法府も一定の配慮はするようなので。新書版として、広く一般の方々が手に取りやすい形で出された本書が、一般の方々との間で刑事司法の問題点についての認識を共有することを通じて、そのための第一歩となってくれることを願うばかり。

*1:某所でお姿を見かけたときに某アニメ映画監督に似ているという指摘が、実に当たっているのに驚いたのを記憶している。

*2:ゴーン被告の行為について疑義があったとしても、描写されている検察などの応対は、著者が当事者であって、一定のバイアスがあることを考慮に入れたとしても、やり過ぎに見える。それと、ゴーン被告の最初の弁護団の弁護活動には、本書中で指摘されているように、刑事弁護の経験のないこちらの目から見ても疑義があるもので、何故そのようなことになったのか、不思議な気がする。何か特段の事情があったのかもしれないが......。

*3:どういう事件でも採り得る方法ではないし、本書中にも指摘のあるように、弁護人の役目とは相反するところがあるので、安易にすべきものでもないと考える。