米国会社法の実務Q&A / 竹田 公子 (著, 編集), 佐川 雄規 (著), 藤田 将貴 (著), 田中 健太郎 (著)

一通り目を通したので感想をメモ。米国子会社のある企業の法務担当者であれば手元にあって損のない一冊となると感じた。

 

米国でJDを取られた日本人弁護士さんとその方が働く弁護士事務所で研修をされた日本の事務所の弁護士さん(日本の弁護士→USLLM修了→USBar合格)たちが、日本企業の米国子会社管理のために必要なデラウエア州会社法の実務知識を、本文が240頁程度で資料込みでも300頁ちょっととコンパクトにまとめたもの、ということになろうか。米国会社法(基本州法で規律される分野)では、デラウエア州法のウエイトは高いのだが*1、その割にデラウエア州法に特化して解説した日本語の本で最近のものはないと思われる。対比しうるのは有斐閣のミルハウプト本だが*2、あれも2009年と15年近く前のものなので、その後の改正には対応していないことになる。

 

法学としての会社法の理解というよりも、上記の一定の範囲におけるデラウエア会社法の実務の理解が主眼の本*3なので、範囲外のことは、重要に見えても書かれていない*4。なので、その範囲に用事がない人にとっては不満に思う部分があるものと考えられる*5

 

印象的なのは、判例法地域のはずだが、制定法があるので、制定法の条文番号はこまめに拾われていて、相当な範囲がカバーされている感じがある。制定法の条文で片が付く話が多いのは、予測可能性という意味では良いのだろう。他方で、判例・裁判例への言及はあまりない。言及するに値するものがないというはずはないだろうから、その辺りは現地弁護士に確認せよという趣旨なのかもしれない。

 

いずれにしても、この本の使い方としては、日本企業の米国子会社(デラウエア州法が設立法の会社が多いと思われる)にいる担当者または日本側で当該子会社の管理に関わる担当者が、手元において、現地弁護士などと話をする際の前提知識を確認するものとして参照するのが望ましいものと考える。その限りでは、手元にあって損のない一冊となるものと思われた。こうした需要はなくならないだろうから、本書についても適宜内容更新がなされることを希望する。

 

*1:州政府が日本語サイトを立ち上げていて、会社法が同州の売りになっていることが良くわかる。もっとも、件の日本語サイトも10年ほど前に出来たきりのようではあるが...。

*2:積読山の中にある...。

*3:編者以外の著者の方々にとってはUSでの研修の「卒業論文」的意味合いがあったのかもしれないと想像する...。

*4:反面で税務周りは、上記の一定の範囲に関わる部分はそれなりに丁寧に拾われていると感じた。それだけ重要ということなのだろう。

*5:その意味では前記のミルハウプト本を参照する価値がまだあるのかもしれない。なお、参考文献のリストはあったが、かなり大部な本しか上がっておらず、実際に本書の想定読者がアクセス可能なのかどうかは疑義が残った。もう少し手頃な本(日本語の本ではないとしても)が挙げられた方が良かったのではないかと感じた。