ジュリスト2021年3月号

例によって例のごとく呟いたことを基に。今回はどうもつまらん感想しかないような気が...。

 

  • 特集。座談会は、人事面で対照的な2社の担当の方をアレンジしたのがまず凄いと思う。個社の状況がまちまちである以上、制度をどう作り、どう理屈立てして、それをどのように社内外に説明していくか、が重要ということなのだろう。十分に考えて説明できれば会社側の裁量は広くなると感じた。もっとも、それは人事部門が、その他の部門と対話しながら施策を決定し、それを従業員その他に十分に説明することを求めることになるから、人事部門にそれなりに人員が割かれていないと厳しいかもしれない。
    山川教授の論考は、5判決の判断枠組みとその枠組みの中でどういう事実を主張すべきかの整理がなされている点は、実際に争いがなった時のことを考えると有用と思われた。
    水口弁護士の論考は、最高裁への批判のトーンは、ポジショントークという側面はあると思うけど、そこまで強く言う話なのかと疑問。
    三上弁護士の論考は、5判決の射程を慎重に検討しているのが興味深い。指摘されているように、日本郵政の事件は、日本郵政の特殊性を踏まえて理解しないと間違う気がする。
    調査官のメトロコマース事件の記事は、短時間・有期雇用労働法8条に関してもこの事件が参考になるとされている点が、水口弁護士の論考での記載とは対照的なのと、そもそも5事件のうちこの事件についてのみ調査官の記事があるのはどういう意味かということが興味深かった。
  • 裁判のIT化の座談会。研究者3+法務省の人1+弁護士1という組み合わせからしてよくわからない。学者の先生が多すぎないか、弁護士も4大の先生とかだけでいいのか、かの先生が所謂街弁の先生の視点をどこまで把握しているのだろうかということも疑問に思った。比較法的な議論が出てくる割に、現象面の説明に留まり、なぜかの国でそういう対応をしているのか、という点の掘り下げがなくて、個人的には読んでいて物足りない印象が残った。予定されている施策についても、現状の現場の身の丈を考えて議論をしている感じがしないので、いざ始めたら大変だろうなという印象しかない。
  • 海外法律情報。中国のものは、かの国でバイオセキュリティというと、何だか不穏なものを感じてしまう。イタリアのものは、国と地方とのせめぎあいのダイナミックさが他人事としては面白い。

  • 種苗法の改正についての記事は、種苗法を使う分野の実務が分からないので、よくわからないところが多かったが(汗)、法案が当初の目的達成に資さないのではないかという指摘は何だか納得。

  • 203国会の概観は、制定した法律等の概要以前にIの概況の記載が、現状の政治の駄目さ加減を映し出している感じがして、ややめげる。参議院のスタッフの方が記載しているので「公式見解」風ではあるが、それでも見えることはあるわけで。

  • 時の判例リツイート事件のもの。一ユーザーとしては、twitterの仕様の問題なのに、リツイートした人間に責任が行く前提の議論は、形式論理としてはあり得るとしても、結果の妥当性に疑義を抱かずにはいられない。何か筋がおかしくないかと思う。この事件については、戦士さんのエントリや、田村先生の評釈も読まないといけない気がする(汗)。
    刑法の方は、207条の適用範囲の限定の仕方についての解説が興味深かった。

  • 判例速報。会社法の記事は瑕疵連鎖説などからすればそうなるだろうなというところ。
    労働判例は、特集の内容とも関係するものだけど事案の事実の影響が大きいのかなと感じた。
    独禁法は田澤事件(という言い方が適切かは不明だが)で、条文選択についての解説が個人的には面白かった。
    知財は、アフィリエーターによる信用棄損行為に不競法2条1項21号の適用を認めたもので、「競争関係」の範囲についての判示が興味深かった。
    租税は、消費税課税仕入れの区分についてのもので、そういう区分けになっているのか、と思うのと共に、問題の仕入れがマンション84棟というところが印象に残った(小並感)。

     

  • 判例研究。経済法のものは、今どきこういうベタな事例があるのか、と変に感心してしまった。
    会社法のものは、取消訴訟の後始末の大変さがうかがわれて、関係者にお見舞い申し上げたくなる。908条1項前段の解釈論も興味深かった。
    保険法のものは、ジープニーって何?というところで引っ掛かる(謎)。錯誤の議論は納得。
    私募債の件は、評釈での指摘に納得。SPC発行の証券化商品で裏付資産に問題があり、かつ、前記の形態からすれば投資家側と証券販売側の間に埋めがたい情報格差がある以上は、やはり販売側に相応の調査・説明義務を課すべきだろうから。
    MtFの方の就労拒否の事件は、本事件でのあてはめに関しての評釈での批判には同意。
    偽装請負の事件については、偽装請負という言葉自体、まだあったのかと思ったりするが、今どきの他の法制との関係ではあり得るのか、と変に納得する。
    租税のものは、評価通達の濫用的な事例に対する対応としては、事案からそうなってしかるべきところと感じる。
    渉外のものは、事案のところだけ読んでも事件の渉外性が見えないので何だかもやっとした。