一口に言っても

こちらの思い付きのメモ*1

この疫病騒ぎの前のことなので、何だか実際よりも前のことに感じるけど、最近(といえるはず)、メーカー法務系の本として2冊の本が、一部の注目を集めた。こちらでも感想を述べさせていただいた。

dtk1970.hatenablog.com

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しかしながら、そもそもメーカー(製造業)法務と一口に言っても、立ち位置によって異なるところも色々あるので、上記2冊については、その意味でざっくりしすぎていないかと感じた部分があったのも事実。もちろん、あまり内容を特定のところに絞りすぎると読者を限定しすぎるから上記の2冊でメーカーという括りにしたことは理解できるのだが。

 

というわけで、こちらの経験・体感に基づくもので恐縮だけど、いくつかの分類軸と分類のご利益を考えてみることにしたい。当然のことながら、異なる意見などがあり得るのは言うまでもない。どなたかの参考になれば*2、幸甚*3

 

規制業種かそうでないか

規制業種の例としては医薬系(農薬とか動物用の薬とかも含むだろう)があるだろう。製造それ自体や製造過程に許可のいるようなものとそうでないものとでは、仕事のやり方も異なるだろうし、法務のあり様もそれに応じて当然に異なってくると思われる。取締法規の重みやそのカバーする範囲が異なるはずなので。迂闊に抵触すると事業活動や製品自体の製造行為それ自体ができなくなる危険がある。

規制業種以外であっても、原材料の調達・輸出入から製造、製品の販売・輸出入の一連の過程の中の一部について、規制を受けることもあるが、前述のものとは、重みが異なってくる。

 

サプライチェーンのどこにいるか

大まかに素材→部品→コンポーネント→最終製品という流れで考えると、この中でどこにいるかでも異なる部分があるだろう*4

最終製品だと消費者法や景表法等への対応が一定の割合を占めるだろうけど、それより川上だとB2Bなので、そのあたりの比重は下がる(極端にいえば、「ない」こともあり得るかもしれない)はず。

逆に素材だと、同業者間でまったく同じまたはほぼ同じモノを適法に製造していることがあり得て(川下の方だと、知財権とかの活用によりそのような事態が生じることは考えにくかったりするように思う)、それに伴う問題(特に独禁法上の問題)が生じることが考えられる。同業者間でのモノの貸し借り(スワップ取引)に伴う問題があったりする*5

 

「ある」か「ない」か・「重い」か「軽い」か

製造設備の「重い」「軽い」(この両者の差異は相対的なものだろうが。)または「ない」というあたりでも差異が生じる可能性がある。「ない」、つまりファブレスというのと、製造工場・設備を社内に有しているのとでは、考慮が異なる可能性があることはそれほど難しくないかもしれない。ファブレスであれば*6、製造にまつわる話の大半は、契約でコントロールすれば済む話かもしれない。

他方で、製造工場・設備があるとしても、プラントやそれに近い多額の投資を要するような「重い」設備があるのと、そうではない「軽い」設備とでは、考慮が異なる可能性がある*7

「軽い」場合には、特に小規模の場合は、製造コスト削減の要請との兼ね合いで、設備の移転の議論が出やすい。「重い」場合は、移転それ自体のコストが大きくなるので、その種の議論は出る確率は減る。他方で「重い」ということは、環境負荷が高いとか従事する労働者が多いとか、事故が生じたりする可能性があり、そうなると、製造現場周辺との関係とかも踏まえた問題が出やすく、法的問題もその中には含まれることがある*8

 

・・・何だか尻切れトンボで、特段の結論はないが、メーカーといっても、どういうもののメーカーなのか、によって法務も異なってくるところがあるということを感じ取っていただければ幸甚です。

*1:こちらの元「中の人」としての経験・体感に基づく個人的なメモでしかなく、内容無保証というところ

*2:メーカー法務からメーカー法務に転職するのでも、差異を感じたことがあることを付言しておく。

*3:以前同様のノリで、B2Bメーカーの法務の概観を試みたことがあった。併せてご覧いただければ幸甚です。

*4:また、下請法の適用の有無によって、契約及びその履行過程に差異が生じることはいうまでもない。

*5:その種の取引自体は、必要性があるので、なくならない反面、同種のものを同量貸し借りなどして対応できるとは限らず、お金での調整が必要となることがあるが、そこの価格情報のやり取りをどう扱うのかという問題が生じたりする。

*6:ここはこちらが体験したことがない反面、ネット上には該当する会社の法務の方がおられることも認識しているので…(汗)

*7:こちらの2社目と4社目は「重い」方だったが、3社目は「軽い」方だった。

*8:米系企業にいたときは、製造拠点の地域のお祭りに寄付をすることが、FCPA上許容されるのかという相談が来たことがあったのを思い出す。