読むことの意味

何のことやら(苦笑)。TL上で、契約書を事業部門が読む必要性についての議論を見たので、呟いたことを基に、考えたことをメモしてみる*1

 

法務*2の立場から、事業部門に契約書を読むことを求める意味はどこにあるか。通常、契約書は契約書に化体しているビジネスを実行する際の行為規範ともなる。そして、当該ビジネスを遂行するのは通常事業部門だから、行為規範を理解せずにビジネスをするな、という意味合いになる。その意味で言うと、事業会社における多くの契約では、理解せずに行為をした場合に、何らかの問題が生じる蓋然性が相応にあるし、事業会社の契約については、事業部門が内容を読んで理解することによって、それらの問題というか危険が回避又は危険の度合いの低減が可能ということが言える。

 

これに対して、主に金融系の方々から、読まなくてもいいという議論が出る*3のを見るのは、理由は不明なるも、上記との対比で考えると、取引から生じうる問題が、個々の担当者の行為と直接紐づいていないから、なのかもしれない、という気がしている。

 

これらが事実であると仮定した場合であっても、事業部門側の制約条件(可処分時間とか端的に言って読解能力とか)を考えると全部を読むというのが厳しいときにどうするか。

要約を作るのも一案なのだろう。もちろん弊害も想定され、要約しか見なくなるという危険が想定される*4。ここはある種割り切りの問題なのかもしれない。何も読まないよりは多少は読んだ方がマシということになろうか。


別の選択肢は、読むべき範囲を限定するというか、優先順位をつけるという発想があるかもしれない。もちろん、読んでないところが何かを生じさせる箇所がある以上、疑義を覚える事態が生じたら、直ちに、法務に相談すべし、という留保を付したうえでのことになろう。

 

契約書について、ざっくりと、定義条項、取引の実体条項、一般条項と大別すれば、まずは、実体条項については理解するよう求めることが考えられるのだろう。さらに、実体条項についても、事業部門の中での役割に応じて読むべき条項の優先順位は異なるのだろう。

相手方に供給すべき商品役務の製造・提供に関わる部門(メーカーで言うと工場が典型)であれば、品質に関わるところ、納期に関わるところが最優先だろう。他方、相手方との交渉窓口になると思われる営業であれば、対価及び納期並びにこれらの変更に関する部分を最優先に読むべきということになるのだろう。

 

役割に応じて、自社に課される義務のうち、理解していないことにより生じうる不利益の大きさが異なる以上、生じうる不利益に応じて、求める内容が異なるものになるのではないかと考える。

 

(追記)

本エントリの公開後、@ms-utenaTさんの次のエントリに接した。

bateau-ivre.doorblog.jp

本当に細かく審査すべきは、基本契約書の条項に優先すると規定された場合の「個別契約」の内容と考えるが、毎日現場と取引先との間で飛び交う「注文書」や「発注書」やその後ろにそっと付いている「約款」や「発注仕様書」を逐一法務がチェックできるだろうか。 

 

「契約書をちゃんと読んだか(契約内容をよく確認したか)?」は法務側にも向けられる言葉でもある。 

 等々、営業経験もお持ちの大先輩のお言葉には、いちいちぐぅの音も出ないくらいなのだが、法的な拘束力を生じさせる可能性のあるものについては、契約審査をする法務の立場としては、内容を確認させることを求め続け、来た文書は確認し続けないといけないのではないかという気はする。貫徹が難しいとしても*5。また、入手できない文書の内容が確認できないのは、ある意味やむを得ない部分がある(すべてを正当化し得ないとしても)としても、確認させるよう求め続けるということは必要なのではないかと考える。

それとは別に、契約書類の内容について、対象製品・役務の内容(特に技術的知見なしに読解できないもの)について確認できるのかというところについては、全部自分で確認する必要があるかというと、そうとも言えないので、社内分掌にしたがって、然るべき部署がチェックしているかをチェックするというのも必要な対応だろうと思う。その際確認のためのフローがあるなら極力それに従い、確認漏れは、それ自体を糾弾するのと(フローに従うこと自体に意味があることが多いだろうから)、それとは別に漏れへの対処をすることが必要になるものと考える。

*1:例によって、こちらの経験の範囲に基づくものなので、異論があり得るものであることは付言しておく。

*2:社内で果たす法務機能を果たす部署という意味で、部署の実際の名称は問わない。以下同じ。

*3:むしろ契約書を裁判になったときの規範となることを想定して書くことを推奨されているのを見る。

*4:それ故に個人的には、修正案を検討する際に作る以外には、要約を作成することについては、消極的である。

*5:こちらについては、厳密な意味では、貫徹しきれなかったことの方が多いかもしれない。どこまでのものを確認対象とするかについての線引きには難しいところもあると思うし…