国際企業保険入門 / 芦原 一郎 (著, 編集), 大谷 和久 (著, 編集)

海外での企業活動に関する保険の付保に関する入門書。以前の勤務先企業で、海外法務部門が保険の付保・事故対応の窓口となっていてこのあたりの対応をしていたことがあったので、購入してみた。この分野の業務に関与するのであれば*1、購入しても損はないかもしれない一冊。

 

外資系保険会社・保険代理店企業の方々が日本の保険担当者向けに海外の企業活動に関する保険について解説したもので。冒頭3章が総論的な解説で、第4章から第7章までがそれぞれの保険の種類ごとに内容の解説があり、第8章では保険の前提となるリスクについて検討するためのリスクエンジニアリングについて、第9章では保険事故に際しての保険金請求について解説がなされている。主に、個々の解説と保険事故への対応への解説を期待して買ったので、冒頭3章はやや迂遠な感があったし*2、第8章は、記載がされていることの理由は理解可能であるものの、やや唐突な感があった。

 

僕自身がこの分野の業務に従事していた時は、なかなか適当な本が見つけられず、結局保険会社のパンフレットとかを見ながら、社内の前例を見つつ対応していて、不安も残るところだったので、この種の入門書が出たこと、それ自体は、評価すべきことなのだろうと感じるところ。

 

とはいえ、編著者の立ち位置からして、保険会社の「使い方」に属することは書かれていない。複数の保険会社の中からどこを選ぶか、とか、保険事故が生じたときにどう保険会社から保険金を入手するか、というところの事業会社側から見たポイントとかについての解説はない。そういう辺りは事業会社側からの視点でないと書きづらいからやむを得ないのだろう。また、グローバルでの事業展開に対応して、保険の内容も全世界統一(に近づける)ことを推奨していて、その利点として挙げられている管理のしやすさということは理解するものの、そこは所詮費用対効果の話で、費用に見合う効果が上がるかというと、特に地域ごとに操業状況に濃淡がある場合には、そこまでする必要が生じるのかは疑義があり、編著者の立ち位置から生じるある種のバイアスが働いているのではないかという気もした。


個々の保険の解説も、一度でも付保の経験があれば、わかるような程度で、紙幅の関係や、個別の会社ごとに差異があるかもしれないところなので、一般論として解説可能なところには限度があるのだろうが、物足りなく感じたのも事実。ただ、こういう種類の保険があるということを認識していないと、調べにくいだろうから、解説がまとめられているのは有用という見方も可能だろう。

 

総論的な点で、いえば、あくまでも欧米での実務を前提に、それを是として解説がされているが*3、伝統的な日本の企業で記載の内容をそのまま実行できるとは俄かには信じがたく、そのあたりについてもう少し配慮があってもよかったのではないかと考えるところ。もっとも、編著者の立ち位置とかからすればそれを望むのは酷なのだろう。

 

*1:企業のリスク管理を法的な観点から行うという意味では、法務と保険とはそれほど距離はないのではないかという気がしているのだが…。

*2:編著者の立ち位置からすればこういう言い方になるのはある意味当然という気もした...

*3:一番最後の「まとめ」で若干の説明はあるが…