その枠の意味は

何だかなあ,という話ではあるが,一応考えるところをメモしてみる。呟いたことのまとめ+αだけど。「空中戦」になっていないかという批判はありうるのだけど,それでも意味はあると思うので*1

 

法務の職域論,つまり,法務としての仕事はどこまでか,という議論については,個人的には,結局のところは個社の状況次第なのではないか,と言わざるを得ないと思っている。企業が果たすべき業務をどこの部署が果たすことにするのかは,そもそも果たすべき職務が何で,その企業内にいかなる部署があるのか,ということとの相関関係の中で決まる話でしかないから。そして,個人的に見聞きした範囲では,法務という名を冠した部署で行っていることについては,相当ばらつきがある*2ので,そうであれば,前述のように考えざるを得ないからだ。このあたりは,ラインとスタッフという二分法でいうスタッフ部門*3のなかでも,人事や経理とは異なるところだろう。

 

だとすると,個別の会社の状況を抜きにした形で,職域論を論じる意味はどこにあるのか。少なくとも,何でもかんでも持ち込まれる状況に抗する手段としての意味はあるのではないかと思う。法務部門の敷居が高すぎて,情報が入らないことげ問題にされるのとは逆に,何でもかんでも法務に持ち込まれて収拾がつけづらくなる可能性もある。そのような場合に,職域の枠をはめることは,そのような状況への対応策の一つ,となるのではないかと思う。

 

もちろん,持ち込まれるものについて,嫌がらずに引き受けるということに意味がある可能性も否定はしない。敷居の高さを下げることにはなるだろうし,持ち込む側の信頼感を高める意味もあるだろう。個々の担当者にとっては,業務領域を広げたり,可能性を広げることに意味がある場合もあるだろう。

 

とはいえ,そういうことをしているうちに,体のいい便利屋扱いされてしまい,部署の中核的業務から程遠い業務に大半の時間が使われることが常態化する危険もあると思われる。そのような懸念を覚えたことも,僕自身ないではない。そのような場合には,何らかの規制をすることにより,軌道修正を図ることが求められることもあろう。恣意的に断りをいれていると受け取られるのを避ける意味で,職域の枠というのはその際の有効な手段となりうるのではないか。

 

さらにいえば,これも,経理とか人事とかとは異なる点かもしれないが,法務という名前を冠する部署である以上,危機管理系の話に大きく巻き込まれる宿命にあると考える。そういう事態*4が一旦生じると,他のことが一切できなくなる可能性もある。止めてしまえるならばそれもありだけど,常にそれができるとは限らない。そして,そういう事態がいつどこで起きるか,予測することには限界があるように思う。そうであれば,可用性を確保しておくことも,部署の職責を果たす意味で,十分な意味があるということになり,職域の枠の議論にも積極的な意味があるのではなかろうか。

 

この辺りは,論者ごとの現在の立ち位置,それまでの経験などによって,異なる考え方があるのかもしれないが*5,僕は上記のように考える次第*6

 

追記:upした直後に無双御大の次のエントリに接した。表現に気を使いつつバランスの取れた議論をされていると思った次第。

ronnor.hatenablog.com

*1:法務という意味では,「空中戦」と言われる抽象度の高いレベルでの議論もできないといけないと個人的には思う。それが極端に苦手な人もいるようだけど

*2:契約書の審査ですら,事業部門の契約担当が行い,法務は直接は関与しないという事例にも接したことがある…

*3:管理系という意味では黒子,という言い方ができるかもしれない。この点,黒子ということがマイナスになるのではないかという言説にも接したが,そのような言説が,仮にまかり通るのであれば,そのことには違和感が残ることも付言しておく

*4:メーカーであれば,製造工場で事故が生じて,従業者・近隣住民に死傷者が出るようなケースとか,許認可業種で,業許可が取り消しになりかねない事不祥事とかを念頭においている

*5:型のあるものを作るとか,労務以外で人の生き死にに直結する業種と,そうでない業種では、温度差があるのかもしれない。前記の2分法はこちらのつぶやきから示唆を得た。つぶやかれた方に感謝する次第です。

*6:この手の元「中の人」の立ち位置に基づくエントリをすることには流石に色々思うことが有るが,書いておくべきかなと思ったことは書いておく次第