一通り目を通したので感想をメモ。
本間本と比べて読んだら面白いかなという程度で買ってみた。
著者は、企業勤務(営業職)で勤務の後、弁護士となり企業内弁護士を経て、企業で役員をされた後、今は大手事務所所属で、ロースクールでも教鞭をとられているとのこと。著者の紹介を見る限り、企業内弁護士としては、本間先生と同様にGEグループのどこかの日本法人の法務を経験された後に、金融系での経験が長いようにお見受けする。本書はどうやら一橋大に出した博士論文を基にしたもののようなのだが(得津先生の呟きによる)、「はしがき」では、論文を基にしているとあるものの、それが博士論文であることがあまり明確にされていないのが興味深い。
表題にあるように、2部構成のうち、第1部ではあるべき法務機能の分析とあるべき法務機能に向けた法務部門の強化について論じている(こちらが上記の論文の内容を発展させた部分と思われる)。経産省のレポートや経営法友会の統計などを基に論じられていて、全体としては、学術論文が基になっていることもあってか、手堅い印象を受ける。
第1章では、アメリカとの比較で日本の企業内法務の歴史を簡単に振り返っている。企業内弁護士に焦点が当たっているのは、個人的には違和感が全くないというわけではないが、著者の立ち位置からすればやむなしなのだろう。
第2章では、企業内法務の機能と役割が、経産省レポートの分析とともに論じられる。個人的にはGC/CLOの役割が強調されている点が印象的だった。確かに経営層に法務のバックグラウンドがある人がいることは重要だと思う。
第3章では企業内法務の現状と展望が、経営法友会の統計を基に論じられている。網羅的ではないとしても、業界による違いが論じられているのが興味深いが、電機・自動車・機械メーカーについての箇所はやや調査不足ではないかという気がしたが、著者の経験のあまりないところだろうからやむを得ないのだろう。
第4章では企業法務に関する人材育成に関して論じられている。著者がロースクールで教鞭をとっていることもあって、ロースクールでの企業法務に関する教育について論じられているのが興味深い。予備試験に対するロースクールの差別化要素になるのではないかとは思うが、著者が実践しているようなカリキュラムを準備するのが相当手間と思われるので、一定の質を備えた授業を準備することそれ自体が難しいのではないかと思われる。
第2部では、企業の紛争解決手段としてのADRの活用、交渉力の強化等について、それぞれ論じられている。
第5章では訴訟と訴訟外紛争解決手段との比較が論じられる。いかなる手段を選ぶかの要素が挙げられていて、最後にトップの思いが挙げられているのは、個人的には納得感が高い。
第6章では、企業の紛争解決手段としての交渉が論じられる。法務部門が関わる交渉の特徴が指摘されていて、段階を追った交渉の進め方についての記載はなるほどと思う。
第7章では企業の紛争解決手段としてのADRが、英米との比較で論じられる。金融ADRについての解説では、ADRが利用されやすくなるためになされている仕組みづくりの指摘が興味深く感じた。ADR活用策については、紛争の状況に応じた使い分けや訴訟手続との遮断についての議論が興味深かった。
第8章では法務の交渉・ADRにおける役割が論じられる。GC/CLOの役割の重要性や他部門との連携が説かれている点は納得するところが多かった。
終章では企業の紛争解決と企業内法務に関する総括と提言がなされる。従前の議論のまとめと今後の展望が説かれる。
個人的にはなるほどと思うことが多かったが*1、一点だけ気になる点を挙げると、一部の情報の更新はなされているものの、基本的には2022年の時点の議論であり、その後の進展、特に生成AIの利用の広がりに伴う議論がないため、全体として既にやや議論が古くなっているという印象を与える点である*2。可能であれば、最新の状況を反映した改訂版を読みたいと感じた。
