一通り目を通したので感想をメモ。
著者は事務所での執務の後、外資系企業の日本法人のGeneral Counselに就き、爾後企業内でキャリアを積まれた方。現在は日系有名企業のCLOからは退かれて、同社のCGO(Chief Governance Officer)とのこと。
本書は、企業内での経験豊富な著者が、企業内での弁護士の在り方について海外事情についても調べたうえで論じた本*1、という事になるのだろう。企業内で法務業務に従事する法律専門家として「カンパニーロイヤー」という概念を提唱し、それがどういう役割、機能を果たすべきかを論じている。
書かれている内容についてはご説ご尤もなことが多く、部分部分は示唆に富むとは思うのだが、全体としては違和感が残った。
網羅的ではないが、気づけた範囲の違和感をメモしておく。あくまでもこちらの感想に過ぎないことは念のために付言しておく。
- 「カンパニー・ロイヤー」なる概念の核にプロフェッショナリズムがあり、そこでは、専門家としての職業倫理を行動原理としていて、ある種の独立性を有していることを重視しているようなのだが、特に日本企業、所謂JTCでそのような概念が成り立ちうるのかというのは、控えめに言って正直疑問。企業内でその企業の外の価値観に拘束されて価値を出すことがあるとすれば、法務はそのうちの一つになる可能性はあるだろうが、常にそうなる保証はないし、いわゆるジョブ型雇用ではなく、他部署への人事異動が想定されているはず(実際はさておき)ところで、そのような考え方は、軋轢を生むだけになる可能性があるし、それ故に企業経営者側に歓迎されることはあまりないのではなかろうか。企業内での法務の地位が確立しておらず、力の弱いところでそのような素振りを見せても得られるものはほとんどないのではないか。
- 著者が、GE法務、特にGCだったハイネマン氏の影響を強く受けていることは感じるが、それを基準にしてものを見ているだけではないかという気もした。個人にたいして「伝説の」とかつけるのが適切なのかは正直疑問を禁じ得ない。真に伝説足るのであればそのような修飾語は不要なはずと思うので。
- 前記の意味でのプロフェッショナリズムというものは、他の職種にもありそうな気がしているが、なぜ法務というか弁護士だけが、このように「偉そうな」物言いで表現できるのかというのも、正直疑問。例えば、メーカーであれば、エンジニアや研究者にその種のプロフェッショナリズムがないということなのだろうか。
- 「カンパニー・ロイヤー」なるものは資格を問わないとしているが、結局有資格者の話しか出てこない感すらある。実際は、どこの資格を持たず、某外資系企業のGCどころか経営トップまで務めた某氏の発言が脚注などで引かれてはいるのだが*2、そういう稀有な例があるから、そういう物言いをしているだけなのではないかと感じた。著者の現職では法務は有資格者だけのようなので、そもそも日常的に接しないから書きようがないという事なのかもしれない*3。であれば、変に資格を問わないと書かないほうが素直だったのではなかろうか。
- GC/CLOの在り方についてみると、経営層にいるロイヤーではあるけれども、経営層の一人の経営者としての側面が薄い気がした。法務に立てこもっているというと語弊があるだろうか*4。
- 勤務先の企業の行動に問題があるものの、是正ができないときに辞任するのを安易といさめているが、著者のような企業内でのキャリアの最初から程度の差こそあれ「偉い人」であればそうだろうが、そこまで行かない場合にまで妥当する話だろうか。何の役職もないジュニア層にそこまでのことを求めた挙句に本人が精神面に不調をきたしてしまったら...と思うと納得しがたいものを感じる。
...結局のところ、著者のような事務所の弁護士から法務の強い企業の上のポジションに転じてその後も錚々たる経歴を歩まれた方とはこちらのような無資格法務の平から管理職になり、資格だけは取ったような人間とは合うはずもないのだろう、という身もふたもないことを思ったのであった。
