読みながら呟いたことなどを基に感想をメモ。契約業務に関わるのであれば、一通り目を通したうえで手元に置いておいて損のない一冊かと思う。
日系・外資の複数の企業内で法務を務められ、司法書士の有資格者でもある著者の本書は、初版のときに拝読したが、今回第3版となった。初版から15年が経過し、著者が企業内法務から「卒業」されるとのことで、そのタイミングでこういう本を出せる環境にあるのは、単純に素晴らしく、かつ、こちらもそうなりたいという意味でものすごく羨ましい。
ご経験に基づく具体的な解説は、初心者にもわかりやすく、特に契約業務に関わる初期の時期に本書で学習すると良いのではないかと思うし、ある程度経験を積んだ後でも学ぶべき内容を含んでいると思うので、いずれにしても契約業務に関わるのであれば、一通り目を通したうえで手元に置いておいて損のない一冊と感じる。
総論的な感想はさておき、以下呟いた内容を適宜編集の上、より詳細な感想をメモしておく。
第1章 契約書の一般知識。
Ⅰ契約書の必要性((契約書の機能)。
1 契約と契約書。契約とは何かがあったほうがいいのかもしれない。要物契約と書面契約が公法上求められる法律の一覧は便利かも。
2契約書作成の目的は、税務会計面で収益認識目的で使われる点にも触れるほうがよかったのではなかろうか。
3証拠力では、訴訟を考えると業界用語の使用は控えるべきとあるが、常にそう言い切れるかは個人的には疑問。訴訟になった時のリスクとの見合いではあろうが、業界用語を使って当事者間で締結及び履行過程で揉めない形にする方を優先すべき時があるのではないかという気がする(ここは毎度お馴染み行為規範か裁判規範かという話ではあるけど)。要は個別具体的な状況次第かもしれない
4 契約書と要件事実は「ものとする」についての議論が、従前からそうであるように、印象深い。
5各種手続に必要となる書面は、司法書士の著者ならではの内容というべきか。指摘以外でも契約書が必要な場面はあると思う。最後のコラムについては、赤裸々な話が印象深いが、急遽作成した社員総会の議事録について、実際に総会が開催されたのか気になった。まあ、仮にやっていなかったとしても時効だろうが。
II 契約締結に至るまでの流れ。
外資で営業に法務が同行していたというのは、法務の陣容に余力がないとできないと思う。事業部門と法務との関係について論じているが、ほかの管理部門との関係についても論じる必要があるのではないか。例えば税務周りに疑義がある場合は早めに税務(経理の中にある場合もあろう)との協議が必要となるだろう。適時開示の問題が生じるのであれば広報などの担当部署との協議が必要になるだろう。
III 契約書の書式(構造)
表題通りの内容だがいくつか感想を。
見出しについての話はあまり認識してなかったが、確かにそうなっているなと。
及び/並びに、又は/若しくはの解説は視覚的でわかりやすい。
締結日のバックデートは、決算との関係で決算期を跨ぐケースへの注意喚起も欲しかった。コラムでの「契約か契約書か」問題については、僕は契約書だと思う。契約書の締結日は、契約内容について合意した日とは異なる可能性があるし、その日がいつなのかについて認識が異なったり後から検証しづらい可能性もあると思うので。
VI 契約書作成時の留意事項
まあ、そうだよねという感じの穏当な内容に見えた。コラムの契約交渉の不当破棄の事例は、自分が著者の立場だったらどう振舞ったかと考え込んでしまう。コラムの後に引かれている米倉先生の言葉が味わい深く感じた。6 契約当事者については、交渉相手と契約当事者との関係の確認(子会社が契約当事者になるのに親会社の担当者が交渉しているケース)や、契約当事者の実在の確認というあたりも時に重要になるということを指摘しておいてもらえると良いのではないかと感じた。
V 契約締結の際の注意事項
相手方が先に押印してきたときは合意したドラフトと同じ内容か確認する(こっそり修正されていないか)とか、も確認すべきかも。
VI 契約書の修正方法
一般論としてはそうだけど、この方法で代金等の金額まで修正してよいかは疑義があろうかと。個人的な感覚だけど、契約金額のようなものの訂正については書面を作り直した方がいいように感じる。
VII 契約書の保管・管理等。
事業部での契約原本管理については、事業部そのものの改廃が多いところで事業部管理にすると、改廃により原本が行方不明になるケースも想定可能と考える。
VIII その他契約書に関する知識等。
1(4)と1(5)ウとの違いが良くわからなかった。むやみに文案に修正をしないというのはわかるが、修正をすべきか否かの判断基準を抽象的なレベルであっても示した方が良いのではなかろうか。wordの修正履歴は残した方がいいが、相手が残さなくても、比較ツールで差分は取れることにも言及があったほうがいいような。ファイル情報は「ファイル」ー「情報」ー「文書の検査」でチェックすることを習慣づけると良いような気がする。合意解約の意図、のところで示される体験談は相手方の意図を探ることの必要性を示していて重要と感じた。
順番が前後するが、3契約の終了(合意解約・期間満了)のところで、契約上の地位の移転(地位の譲渡)が出てくるのには個人的には違和感があった。
第1章末の参考文献
あるのは良いと思うが、挙げられている文献について、民法の基本書は古めに見えるのと*1、企業内の契約実務に関する本が含まれていないのが気になった。後者については、こちらも挙げるべき本が直ちに思いつかないが、第2章の参考文献になっている花野先生の本はどうだろうか。
第2章 契約の各条項。
一般条項とリスク管理条項にわけて論じるというのは、よくある区分にも思うが、一般条項の話から始めるのはあまり見ない気がする。
I 一般条項。目的条項については、契約不適合責任との関係で議論するなら、リスク管理条項になるのではないかという気もした。まあ、両者が相互排他的なものではないのだが。契約期間について、更新忘れに、黙示の更新があった旨の確認条項を入れるというのはなるほどと思う。コラムの「自動更新のわな」は、特にソフトウェアの利用に関する契約ではありそうな話だと思う。コラムで約定解除に何の意味があるのかという指摘があるが、法律論からすれば当然でもそこに逆らう人間が出ることは想定可能で、それに対して「でも契約書にこう書いてありますよね」と黙らせることが可能という利点は想定可能だと思う。履行停止特約も、なるほどと思う。履行停止可能として債務不履行は生じさせない形にだけする(解除まではしない)というのは使い勝手が良いかもしれない。管轄について、地裁の支部を指定した合意は無効とあるが、無効といっても、当該地裁での合意管轄が認められるだけなのではないか。そのあたりが読み取りづらく感じた(引用されているコンメンタールの記載もそこは不明確と感じた)。準拠法については、動産売買におけるCISGの適用可能性の問題にも触れておいてもらえると良かったかもしれない(ここに限らず本書は国内での契約だけを視野に入れているようなので酷な話ではあろうが。)。ラムの年下の上司(ローヤー)の仕打ちは相当ひどいと思うが、さらっと書かれているのはすごいというかなんというか。もう一つの管轄はおもしろい、のコラムの内容は興味深いし、指摘には同意。
II リスク管理条項。
1債務履行関連。損害賠償の範囲の限定の仕方がまとまっているのは良い。直接損害・間接損害という切り方の問題点の指摘は納得だけど、どのみちもめて交渉になると思えば、使うのはアリかと思う。損害賠償の予定についての実例はわかりやすいし、一つの考え方を示唆していると感じる。契約不適合責任と品質保証責任の関係ははっきり書かれていない気がするが、両者は併存するという趣旨なのだろう。
2 取引先の信用不安・倒産対応等。相殺条項の扱いの難しさの一端が示されているのは興味深い。相手から相殺に供される債権の額の妥当性を争いたい時に面倒になるような気はするが。所有権留保のあたりは実務であまりかかわったことがない(商社経由の売買が多いからか)、まあ、いろいろあるよなと思いながら読む。解除周りではChange of control条項は、知財関連に限らず、取引基本契約などでも見る気がするのだが...。暴排条項についてのコラムで、NDAにいれるのかという問題提起は納得。
*2不可抗力周りは、掘り下げるといろいろあるはずなのでもう少し解説があっても良かったのではないか。
3業界に特有な条項。この括り方もなかなかな気がする。輸出管理は米国の再輸出規制が絡むとさらにややこしくなるが、そこまでは触れている必要はないのだろう。
III 英文契約から由来する条項
定義条項は冒頭にあって長いと読みづらいので後ろに回すケースもあってよいのではないか(英語ものでは時々ある)。
表明保証について法律的意味がないという指摘に苦笑。完全合意条項の*27は意味が取りづらかった。単に完全合意条項がある契約書には、従前の合意内容が漏れなく書いてあるかどうか確認すべし、とすればよかったのではなかろうか。
譲渡禁止条項については、記載のような見方もあるが、こちらはそうは思ってないとだけ*3。存続条項については、著者とは異なり、僕は存続条項における存続対象に存続条項自体を含めるべきと考える。実際にそう思うかは別として、存続条項に存続条項がない以上は、元の存続期間が満了した後は存続条項の効力は消えているという議論を相手からされるのを防ぐ意味で。第2章の章末の参考文献も個人的には疑問あり。書式集という意味では阿部井窪片山本は入っていて然るべきと思う。
第3章各種契約書。
3種の契約書について検討。
I 売買契約。1売買基本契約での検討があっさりしていて、2不動産売買契約での検討が厚めに見えたが、著者の資格やこれまでのご経験の反映なのだろう。事故物件に関するコラムの最後での指摘には納得。
II業務委託契約。知財条項については、著作者人格権の不行使条項がなくていいのかというところは気になった。ノウハウとかは受託者側が手元においておいて、使いたいケース(研修の委託とかのケースでは想定可能か)もあるので、その辺はケースバイケースでの判断になろうか。
III秘密保持契約(NDA)。子会社・関連会社への再開示の扱いは、再開時の相手先を具体的に明示すべきというのはその通りだが、子会社・関連会社が多く、グループ内再編が多い相手だと面倒になりかねないので、バランスが難しい気がする。例外規定の法令上の要求の具体例の検討は興味深い。対象とする政府機関を具体的に記載すべきというのは理解する一方で、外国のその種の機関からの要求を考えると、そう簡単かなと疑問に思う。
第4章契約書と印紙税。
冒頭に税理士法2条(厳密には2章柱書だろうが)が出てくるのが、良い。
「とりあえず200円」への苦言は理解するが、3倍課されるリスクを下げ1.1倍で済ませる可能性を増す意味では、ほめられはしないとしてもあり得る対応なのではないかと思う。
基本契約が7号該当でないときに200円となる場合の説明があるのは良い。
グループ間契約で1部のみ作成保有とし、他方当事者は写しのみを保有するケースが出ているが、「他方が所持するものには、写し、副本、謄本などという表示をしても、それが契約の成立を証明する目的で作成されたものであるならば、正本又は原本と同様に印紙税の課税対象になります。」点は注意が必要だろう*4。
おわりに
赤裸々な体験談は、書いて大丈夫なのかという気はするが、直近の勤務先の話ではないので問題ないのだろう。研鑽を積むことの重要性は、僭越ながら同意。
*1:おわりに、を見ると新しめの基本書も上げておられるので、あえてなのかもしれない。
*2:かつてエントリにメモしたことがあった。https://dtk.doorblog.jp/archives/23061172.html#more
*3:以前こういうメモをした。https://dtk.doorblog.jp/archives/51160966.html#more
