一通り目を通したので感想をメモ。英文契約に関わる(特に英文契約を書いたり、修正したりする)のであれば、手元にあって損のない一冊。
元丸紅で企業内法務に従事された後、アカデミックに転じられた著者は*1、英文契約周りに関する書籍を数多く出されている。こちらのblogでエントリに感想をメモしたものも数冊ある*2。著者への信頼から*3、中もロクに確認せずにとりあえず購入した。
「英文法」という表題から、契約書の文章を素材に英文法一般を説くのかと勝手に思っていたが、そうではなく、実際の英文契約書の文章を素材に、英文契約書を読み書きする際に必要な英文法を説くというもので、英文法一般について説くものではなかった。英文契約にかかわる側としてはその方が良いだろう。素材の英文契約が、実際の契約書類として登録されネットで公開されているものを使っているあたり*4が、今どき、と感じた。文例についても、文法からすればおそらく間違っていると思われるものもコメントともに掲載されているのが実務的と感じた。
主語、動詞、助動詞、副詞、仮定したり、条件設定する表現という章立てで順序だてて解説がなされている。個人的には助動詞の章で、気になっているshallの扱いについて、いくつかの使用法に分けて実務よりの解説がされているのが特に印象的だった。また、当事者間の権利義務について記載する以上出てくる余地があるのかと疑義も覚える副詞について1章を割いて解説しているのも興味深い。こちらがあまり意識していないだけで、よく考えると、一定の副詞は契約書類に出てきているのだが。最後の章でのif とwhenの使い分けも不勉強で十分に意識できていなかった。
目次がしっかり作られているので、一読したうえで、必要な個所を目次に従って探せば、契約書の読み書きの際に文法で迷った時の良い参照資料になるのではないかと感じた。その意味で手元にあって損のない一冊と考える。
*1:元大手商社法務→アカデミックというと、同じ中村姓では、某”ハーレム”教授もそうだし、三菱商事から一橋に転じられた小林教授などもいて、商社の層の厚さは実感するところ。もっとも商社の法務が企業内法務のすべてではないと思うが...。
*2:国際交渉の法律英語、英文契約書取扱説明書、国際契約交渉のキーポイント、英文契約書修正のキーポイント、新訂版 英文契約書作成のキーポイント。他方で、大著の国際商取引契約、については、結局積読の山に埋もれたままになっている。個人的には目を通した中では、現時点では、経験に基づく割り切りの大胆さが印象的な、英文契約書取扱説明書が、秀逸だと感じている。
*3:数少ない、書籍が出たら買うと決めている著者の一人である。
*4:一部改変が入っているが。