「法科大学院の教室における2つの法的三段論法」東北ローレビュー第11号(2022年)/得津晶

shoya先生の呟きで知った論文を拝読したので、雑駁な感想をメモ。

 

司法試験(予備試験も含め)の受験勉強のうち、論文式の試験対策では、法的三段論法の徹底が説かれるところであり、その重要性を否定するわけではないが、本論文では、「適用されるべき法規範を大前提とし、具体的事実を小前提として、この2つの前提から判決を結論として導き出す推論形式」であるところの法的三段論法、図式化すれば、「規範→事実→あてはめ(結論)」と整理できるものとは別の法的三段論法があり、その両者の習得が法学の学修では求められるとする。もう一つの三段論法とは図式で示せば「問題提起→規範・理由付け→あてはめ」というべきもので、前者の三段論法では論点を含むものへの対応がしずらいから、この種の「型」も使いこなせることが求められるとのことであり、その必要性について実際の予備試験の商法の問題への対応・答案例まで示す形で説明がなされている。

 

受験時代のこと、特に答案の書き方の類については、すっかり忘却の彼方にあるのだが、おぼろげな記憶によれば、確かに後者の書き方も使って答案を書いていたし、それは、そうしないと書きづらいからということで特に意図せずにいつの間にか合格までの間に身についた気がする。

USBarのエッセイ問題への対応で言われるIRACルールでは、最初にI、Issue Spottingがあることを考えると、後者の三段論法にも別に違和感はない。もともと言われている法的三段論法がむしろIが自明であるがゆえに省略されていると考えたら、両者を一体のものとして考える事ができるのではないかという気がしないでもないが…。

 

この論文を読んで一番疑問に思って、それでいてこの論文で書かれていない(ように見えた)点は、そのような2つの法的三段論法を使うことが必要である旨、明示的に語られるのを見たことがないのはなぜなのか、というところ。著者自身も本論文を書いた経緯の一つに、質問されるのに答えるため、と書かれているが、質問をされるのは、そもそも指導されていないから(理解できていないから、かもしれないが)ではないかと思うし、僕自身も受験時代に誰かからそうするように明示的な指導を受けた記憶はない。法的三段論法は貫徹せよと説かれるわりに、その法的三段論法としてどうすべきか、が明確に語られていないのは、不親切という気がするし、仮にそういう基本的なところについて指導ができないとなると、指導する側に問題がないのかという疑問が生じる。研究者教員の中に司法試験合格まで至っていない方がおられるからなのだろうか。いずれにしても気になった。