法律文章読本 /白石 忠志 (著)

出遅れたが一通り拝読したので感想をメモ。いうまでもなく名著。法律に関する文章の読み書きをするなら座右にあるべき一冊。

 

以下読み進めつつ?呟いたこと*1を箇条書きでメモしてみる。なお、エントリにまとめるにあたり、若干の加筆修正を行っている。

  • 「はじめに」
    著者が本書で書きたかったことが述べられている。個人的には著者個人の心掛けが記されていることが重要なのではないかという予感。さりげなく張られた予防線も上手いと感じる。めざすべき「正確でわかりやすい文章」の定義が最初にあるのは重要と感じる。ゴールが見えない文章は読み手にとってはストレスだろうし。「分かりやすいもの」の批判者への批判は鋭い。「公文書作成の考え方」についての説明は、あまり知られていないとおも割れる2つの点(特に最初の点)についての指摘が重要と感じた。「はじめに」で全体構成についての説明があるのも親切でよいと感じた。マクロからミクロへと視点がうごく点の説明も含めて。
  • 第1章。入門。
    最小限の基本を語っている。最小限に含まれているべきことは確かに含まれているという印象。定義していないことは語らずに一歩たりとも進まないという覚悟のようなものすら感じる緻密な論述*2。見落としがち、見過ごしがちな細部の説明がある一方で、説明のつけづらいところについては無理をせずあっさりすませているのもさすがと感じる。「及び」・「並びに」と「又は」・「もしくは」の区別を階層の高低で表現しているのにはなるほどと思う。個人的には叙述とは反対のイメージを持っていたけど。「歴史の目印」の部分は個人的には特に興味深かった。
  • 第2章は文書。
    基本的な考え方3点は納得。依拠され転用されることを意識すべしとの指摘は確かにそのとおり、と組織内で過ごした年月が長くなると思う。正確さの担保を記すことによる書き手に対する効果も納得。「わきの甘さ」の使い方もなるほどと思う。法的三段論法の順序についての指摘も、答案などを書いていて迷いを感じたことのあるところなので肚落ちする。
  • 第3章は文。
    外国語と考えることについての著者見解に納得。今一つな文について、問題点の指摘と改善例が分かりやすい。読点の打ち方について、文の構造を視覚的に示すという指摘には、無意識にしていることの明文での説明に、なるほどと思う。
  • 第4章は用語。用語の使い方の工夫で文章をわかりやすくし、誤解を避ける方法が、実例・改善例と共に指摘されている。例文が著者の体験範囲から出てきているのが良いと感じた。「〇〇性」「〇〇主体」等の表現が素人目にはわかりづらいというのは、あまり意識していなかった。こちらが変に擦れているからなのだろう。定義は「要件」であり、機能は「効果」であるとの指摘は、秀逸。
  • 最終章の第5章は表記。細かいと言えば細かい話が続くが、読みやすさ・わかりやすさへの配慮の仕方が徹底されている。電子化の中でフォントの選択についての言及があるのも今どきらしい。
  • 「おわりに」では、本書執筆に至る経緯の記載があり、得心したところが多々あった。学務でのいろいろな体験が寄与したところは大きかったのではないかと拝察する。最後に出てくる奥様の疑問(?)については、冗談ではなく、長期的には御殿が実現するのではないかと思う。競争法の本よりも広く読まれる可能性はあると思う。大学の法学入門の講義のテキストにも使われるだろうから。
    本文で指摘もあったが、法制執務の膨大な蓄積は、直接あの分野に関わらない立場だとちょっと重すぎるので、あの分野以外の法律実務をするにあたり、手元において、あの分野の知見を活かすための本としては本書は適切な分量・詳細さなのではないか。
  • 本文で指摘もあったが、法制執務の膨大な蓄積は、直接あの分野に関わらない立場だとちょっと重すぎるので、あの分野以外の法律実務をするにあたり、手元において、あの分野の知見を活かすための本としては本書は適切な分量・詳細さなのではないか。一読したくらいで実践できるような内容ではないので、一読したうえで座右において、手軽に紐解けることが重要と思う。
  • 最後に、本書の続き?として、法律的な考え方についての本を書かれると呟かれていたと思うが(当該つぶやきが見つけられない(汗))、そちらについても期待大であることを付言する。

追記)読み方の実例としても秀逸な動画が著者により公開されたので、併せてご紹介しておく。

 

*1:移動中に目を通した部分については、後でつぶやいたが

*2:本書について、大要、平凡を貫いて非凡に至る、という指摘に接したが、それは、語弊があるかもしれないが、著者の業績全般について、該当するのではなかろうか。