パワハラのグレーゾーン-裁判例・指針にみる境界事例/ 山浦美紀(弁護士)

一通り目を通したので感想をメモ。この辺りに関心があるのであれば、手元にあって損のない一冊だと感じた。

 

パワハラについて、判断に迷う「グレーゾーン」と思われる事例を、ベテランの実務家がパワハラ指針や通達の内容及び裁判例を足掛かりに分析した本、というのが本書のざっくりとした紹介になるだろうか。全体として200ページ弱とコンパクトで、文章が平易なことも相まって通読も容易であった。

 

パワハラについては相応に相談に応じることがあるが、判断に迷うこともあり、経験豊富な実務家の分析はそれ自体が参考になり、その意味でもまず本書の解説には価値があるように思う。また、解説の文章、特に結論に至る分析部分(所謂法的三段論法でいうところの「あてはめ」にあたる部分の)のかみ砕き方が秀逸で、法的素養が特になくても理解可能な程度になっており、その種の素養がない人事担当者が読んでも理解可能なのではないかと感じた。何も言わずに渡してもよいのではないかと思うくらいに。解説はQ&A形式になっていて、巻末に別途Qのリストだけがあるので、それらを使って(全部をつ扱うのは難しいかもしれないが)、Aを議論する研修を行うという使い方も可能かもしれない。この分野に縁のある法務担当者としては、一読のうえ座右においておくのが良いと感じた。

 

個人的には、それなりに書籍などでインプットをして理解をしているつもりだったが、Qだけ見て、Aを考えてみたところ、著者の解説とは異なる結論になっていた部分もあった。それらについても解説を読むと、納得するところがあり*1、学ぶところがあったと感じた。

 

欲を言えば、本書の使い勝手をより良いものとするうえで、次の点は、再考を求めたいところ。

  • 巻末にパワハラ指針は付されているが、通達や、パワハラの定義を示した所謂パワハラ防止法も全文(法については関連する部分だけでもよかったかもしれない。)が付いていた方がよかったのではないか。
  • 他の設問中に解説がある部分などへのクロスレファレンスはもっと充実してほしかった。
  • 解説の基準時も具体的な日を書いてもらえるとよりよかったかもしれない(はじめに、の記載からすれば2023年5月のどこかになるのかもしれないが...。)。

いずれにしても今後も適宜内容を更新し、内容の充実が図られることを期待したい。

*1:設例によっては、判断がやや保守的なのではないかと思ったところもあるが、この手の本であれば、保守的な方が無難なのだろう。