ゼロから学ぶ労働法 / 原 昌登 (著)

目を通したので感想をメモ。労働法実務に関与する際の「最初の一冊」として良い一冊。

 

労働法の入門書というと、森戸先生の「プレップ労働法」が、定番化しているような気がする。本書は、同書で森戸先生から、「原昌 登助教授」(当時は准教授ではなく助教授だった)と弄られていたことのある原先生が、企業の人事労務担当者向けの専門誌に連載で解説したものを、内容をアップデートして一冊にまとめたもの。

 

もともとの雑誌連載が、企業の人事労務担当者向けで、読者に法律の素養がない(かもしれない)ことが前提となっているので、関係のある範囲では基本的なところから解説してくれているのも良いし、連載の体裁を保っているため、一つのテーマが4ないし6ページ単位でまとまっていて、どこから読んでも違和感があまり感じさせない形になっているのも、とっつきやすくなっていて良いと感じる。解説自体は丁寧で、噛み砕いた形での説明が分かりやすく、その分森戸先生の本よりも分量は大目になっている感もあるが、読み易いので負担感はそれほど感じなかった。

 

個人的に説明の仕方が印象に残ったものをいくつか(網羅的ではないが)メモしてみる。

  • 整理解雇の4要件(要素)のうち(解雇)回避努力についての説明
    「企業の規模や状況によって、できることは異なりますので、真摯に出来ることを尽くしたか、まさに「努力」の有無が問われると考えてください」
  • 同一賃金同一労働における不合理な相違の禁止に関して、不合理性の判断基準についての説明
    「不合理かを判断する最も基本的なポイントは、なぜそのような相違があるのか、きちんと説明できるかどうかです。条文には書かれていなのですが、キーワードは「説明」です。」
  • 安全配慮義務について
    安全配慮義務とは、何かチェックリストのようなものがあって、それを機械的に全部やれば義務を果たした、といえるようなものではありません。使用者としては、労働者1人ひとりが多様な個性を持つことを前提に、できる限り丁寧な対応が求められるということですね。」

 

入門書という立て付けの割には、本書の先の読書案内がないのは少し残念な気がした。次に読むべきは、ややハードルは上がるが、水町労働法(有斐閣)などなのだろう。次回以降の改訂で何らかの追記がなされると良いのだが。

 

森戸先生の本が、司法試験・予備試験向けなのに対して、本書は実務向けという感が強く、広く浅く触れている感じがする。司法試験・予備試験の正味の出題範囲を考えれば、そのような差異が生じるのもおかしな話ではあるまい。用途に応じていずれかを選ぶのが良いのではないかと感じる。人事労務の方々が労働法に最初に触れる際に手を取る本としては良い本と感じる。