人事労務の法律問題 対応の指針と手順〔第2版〕 / 佐藤 久文 (著)

漸く、ざっとではあるが一通り目を通したので感想をメモ。人事労務分野に関わるのであれば、手元にあって損のない一冊というのがこちらの感想。

労働集中部を含む裁判官としての勤務ののちに弁護士に転じられた著者の手によるもので、本年3月に改訂がなされたもの。内容については、第2版はしがき冒頭に、次のように次のように過不足なく記載されている。

本書は、企業が人事労務の法律問題に対処するための実務マニュアルです。重要な法律、通達、ガイドラインおよび判例を数多く紹介してありますが、それらの解説は必要最小限にとどめ、その代わりに、企業が人事労務問題に直面した際の対処の方法や手順をできるだけ具体的に解説するよう努めました。

 

こちらが一通り目を通した限りでは、人事労務問題全般についての人事労務担当者向け実務マニュアルという印象。解説は最小限で、人事労務担当者が何をすべきかについては、具体的な記載がある*1。要所では資料として残すべきものの書式例も含まれている。それでいて分量も400頁程度に収まっている。

 

東京三会のうち2つから人事労務全般についての実務書が出ているが(片方はこちらの手元にもある)、通読がシンドイ分量であることと比べると、このコンパクトさは対照的。人事労務問題は、一つの問題が複数の論点にまたがることもあり、「全体観」のようなものを踏まえた対応が必要という気がしているので、本書を一読して、「全体観」のようなものをある程度踏まえたうえで、目の前の問題に向き合うのは、適切な気がする。その意味で、人事労務の担当者に渡して読んでもらうのも、法務担当者が相談に応じるための辞書代わりの一冊(法務担当者が使うのであれば、「理屈」の部分の補強のために他の本が必要だろう。)とするのも、どちらにも使えるのではないだろうか。

 

また、判例・裁判例を踏まえた、懲戒処分や慰謝料などの相場観(ある程度幅のある形ではあるが)が示されているのも印象的。相当に経験値がないと、個人の判断とはいえ、こういうものを示すのは難しいのではないかと感じる(共著ではもっと難しいかもしれないが)。このあたりだけでも本書を手元に置く価値は十分あるのではないかと感じる。本書については、今後も法令・ガイドライン及び判例・裁判例の変化推移に伴い適宜のタイミングで改訂を重ねて、長く使われる本になってほしいと感じる。

 

 

*1:その分文章は淡々としていて読んでいて面白さを感じるようなものではなく、この点でも裁判官の文章という印象を受けるところではあるが。