イチからつくるサステナビリティ部門 元システムエンジニアの挑戦 / 本田健司 (著)

この分野については、勤務先でも何らかの動きがあることが想定されることもあって、ある程度のことを知っておいた方がよさそうと感じた。それと、TL上で本書を推す発言にも接したことから、図書館で借りてみた。この分野に用事のある人であれば、目を通しておくと参考になることもあるかもしれないというのが、こちらの本書についての印象。

 

著者はNRI野村総合研究所というと、山形浩生さんのいるシンクタンクという以上のことは知らない)で元SEの総務部員だった*1ところ、サステナビリティ部門の立ち上げをする羽目になり、奮闘した記録と、それらを踏まえて、この種の部門をイチから立ち上げるためのポイントなどを記したのが本書というところだろうか。冒頭にESGについての基礎知識の記載とこの種の部門の業務内容の解説、それから、末尾に関係する用語の解説(横文字由来の片仮名が多く*2、こういうのは助かる)もあるので、その部分だけでも有用なのは確かだろう。

 

これらの間にNRIでの組織の立ち上げの回顧と展望について書かれている。この種の組織の立ち上げというのは、簡単なことではなく、段階を追って業務が展開されていく様子は、興味深いし、特に、最初から100点満点を目指さず、出来る範囲でやっていき、その点を明示的に開示するというのは、日本人がわりに苦手としている対応の仕方ではないかと思うので、そういう事例がこういう形で公表されていることには相応の意味があるものと考える。

 

しかしながら、いくつか引っ掛かるところがあったのも事実。

  • そもそも役員の支援があって、資源もそれなりに潤沢に突っ込んでいるので、ここまで突っ込めない企業にとってどこまで参考になるか分からない気がした。外部コンサルタントの知恵が必要なところは、シンクタンクなので、そういう部門の力を借りたり、工数のかかるところはあっさり外注に出しているがそういうのが可能でない会社ばかりではない。
  • コンサルタントの知恵を借りた部分については、何がどうなっているのか書かれていない。本書がNRIの販促資料の役目を果たしているから書かれていないののかもしれない。こちらとしては、そのあたりが知りたいところの一つだったのだが...。
  • 下請とかの協力もわりにあっさり得られたように書いているが、この辺りは、当の下請とかからはどう見えたのかも気になった。

個人的には、この種の「意識高い」系の話は、正直好きではないし、この種の議論も欧米の「活動家」のためにする議論ではないかと疑っている部分があるので、どこまで真面目に付き合うべきなのかは、慎重な吟味が必要と考えている。

とはいえ、業務としてかかわりを持つ場合には、こういう「意識高い」系の企業が「人柱」になっている実例があると、有用なこともあるのだろうと思うので、その限りでは、本書に目を通しておくと参考になることが有るだろうと感じた次第。

*1:冷静に考えると、SEで海外も含め経験豊富な著者が当時何故総務部にいたのかもよく分からない気がする。将来上に上げるためのステップということなのだろうか...。

*2:こういうのは寧ろアルファベットで書いてくれた方が個人的には読みやすいのだが...。個人的には、翻訳可能にみえるところで片仮名が多用されると知性の欠如を感じてしまい、それだけで読むのが苦痛になる。