組織戦略の考え方―企業経営の健全性のために / 沼上 幹 (著)

一通り目を通したので感想をメモ。所謂JTCに勤めているのであれば、今なお手元においておいて損のない一冊ではないかと感じた。

同じ著者の「組織デザイン」が新書なのに結構手ごわい感じなので、軽めと思われた本書に先に目を通すことにした*1。実書店で探したのだが見つけられず、面倒になったので、日頃の信念に反して、ブックオフオンラインで購入した。

 

「はじめに」で本書での著者の問題意識は次のように記されている。なお、「本質的な部分」とはコア人材の長期雇用を前提とすることとされている。

日本の組織の劣化がしていくことがよくあるのを知っているけれども、日本の組織の本質的な部分を維持しながら、どうにかこうにかダメにならずに経営していくにはどうしたらいいのか。

そして、本書は、組織の基本、組織の疲労、組織の腐り方、の3部に分けて、著者の分析と対応策の提案が記されている。その叙述は一歩一歩着実に思考を積み重ねる形であり、片仮名用語に惑わされることのない、地に足の着いた確かさを感じさせた。そして、著者が本書で意図するところは次の通りで、その意図が良くわかる記載となっていると感じた。

各人が自分で自分の組織についてどのようにアプローチしていくのかという自分なりの戦略を作れるように、そのための読み筋を示唆する本にしたかったのである。

 

JTC勤務がそれなりに長くなっているので、いずれの記載も、思い当たるところがあり、なるほどと思いながら読んだ。2000年代初頭の本なのだが、その頃から、あまり変化がないということだとすればそれ自体問題なのかもしれないが、指摘されている内容に普遍性があるということを示しているのかもしれない。流行りの何かに幻惑されることなく、現状を虚心坦懐に認識したうえで、何を考えるべきか、基礎的なところから、自分の頭で考えて、決めて、実行することの重要性を改めて感じた。

 

いくつか、特に印象に残った点を箇条書きでメモしてみる。

  • 官僚制は、創造性、戦略性を支える足腰
  • ボトルネックの解消に注力することの普遍性
  • 組織構造自体は何も解決しない
  • 承認・尊厳要求の重要性
  • 賃金と昇進以外のインセンティブの重要性
  • 決断こそ経営者の仕事
  • 調整型のリーダーの真贋
  • スキャンダルの裏側で権力が生まれる
  • スタッフのコトバ遊びは腐敗の兆候

所謂JTCで働くのであれば、組織とかで悩んだときには本書を紐解いて、自分の取るべき立場を考え直すのに使えるのではないかと感じた。その意味で手元においておいて損のない一冊と考える。

*1:雑誌のエッセイの連載に加筆したものなので、前記の本とは異なり、文体も読み易かった。