独禁法の授業をはじめます (授業シリーズ) / 菅久 修一 (著)

一通り目を通したので感想をメモ。独禁法の入門書という感じもするが*1、入門書の時期を過ぎた方々にとっても、目を通しておいて損のない一冊ではないかと感じた。

 

公取の事務方のトップの著者が、個人の立場で、独禁法の全体像を語ったもの。同氏の関与した本というと、「赤い本」とか、その入門的な「紫の本」があるが*2、それらは、公取の公的見解に近いものを語っているという感があったのに対して、本書は、もう少しご本人の個人的なものの見方が出ている印象を受けた。キャノンの東芝メディカル株取得に関する件について、「ほとんどガン・ジャンピングだ!」などと評するのは、個人的な立場と断りを入れないと書きづらいのではなかろうか。

 

細かい点を端折って、堅苦しさを排するために条文番号とかも出さずに、できるだけ、わかりやすく独禁法を語るという点については、語り掛けるような語り口や、図表をふんだんに使ったり、事例を多く紹介していることも相まって、ある程度成功しているのではないかと思う*3。そういう意味で、本書から独禁法に入る、というのはアリだと思う*4。また、手続き回りについても、「赤い本」よりは眠くならない形が書かれているので、入門の時期を過ぎた方でも、その辺りだけでも目を通しておいて良いのではないかという気がした*5

 

一方で、著者が公取の方なのもまぎれもない事実であり、そのせいか公取ポジショントークめいたところを感じてしまったのも確か。著者の地位からすればやむを得ないのかもしれない。独禁法の歴史を語る中で、審判制度の廃止について、その経緯に触れていない点や、職権行使の独立性をくどいくらいに強調しているあたりがその一例というところか。

 

いずれにしても、目を通しておいて損のない一冊と感じた。

 

 

*1:「授業シリーズ」と銘打たれているが、同じく商事法務の赤い本(独禁法)、緑の本(景表法)のような感じで、シリーズ化されるということなのだろうか。

*2:個人的には赤い本は、理由は不明なるも、読んでいると眠くなるので、通読したことはない。紫の本は、今は手元にないが、司法試験の選択科目として経済法の受験勉強をする際に有用だったと記憶している。

*3:話はそれるが、ブラウン管カルテル事件の説明の中で、「ブラウン管というものを見たことがない人もいるかもしれませんが」とあったところで、ダメージを受けてしまった。確かに今の20代の人とかは知らないよな...。

*4:こうした点から、既に、ちくわ先生が指摘されているように独禁法の社内研修の際には、参考になるところが多いのではないかと感じる。

*5:調査周りの話が真ん中近辺で触れられている構成には、必然性を感じることができず、やや違和感が残った。