風街とデラシネ 作詞家・松本隆の50年 / 田家 秀樹 (著)

図書館で借りて一通り目を通したので感想をメモ。松本さんに関心のある方であれば目を通しておいて損はないし、最初の一冊として最適だと思う。

 

松本さんというと、作詞家というだけではないし、そもそも、はっぴいえんどのドラマーという演奏者だったが、関与された作品の量が多すぎて、その50年に亘る足跡をたどるのも容易ではない。本書は、松本さんに比較的年代が近く、音楽業界にいる著者が、松本さんや関係者へのインタビューを交えつつ、松本さんの足跡のハイライト(取り上げられている作品の量も多いが、それでもなお、一部でしかないことは著者も書いている)をたどるもの。

 

著者が、業界にいることから、当時の自分がどう感じたか、ということも交えているので、同時代人の回顧という感もあり、時系列に沿う感じで、最初期から丹念にたどっていて*1、リアルタイムで見ていない人間の勘違いめいた不適切な持ち上げ方が入り込む余地が減っているように見え、好ましく感じる。雑誌の連載が基になっているというのが、こういう丹念さを保つ上では、適切だったのかもしれない。

 

個人的には、何よりも松本さんの自由さというか、色々なものに対する距離の取り方が興味深い。しがらみに囚われないあたりは、天性のものなのだろうとは思うが、単純に凄いと思う。

文中で触れられている中では、松田聖子さんとの距離感の取り方について、ちょっと先に石を投げる、という表現が取られているが、その辺りや*2、ソロになってからの大滝さんと組んでのアルバム制作も3枚と限って、最後には、その点を示唆する歌、「1969年のドラッグレース」が作られるあたり、とかが、非常に印象に残った*3

 

文中で出てくる歌い手の名前とかで全く知らないというものは少ないのだが、それでも知っている曲は、ごく一部で、こちらの不勉強というか、活躍量の膨大さにはただ溜息をつくしかない。本来であれば、音源を聴いて堪能をした方が良いのではないかと思ったが、そこまでするのも大変そうな感じもした。ともあれ、松本さんのこれまでに興味を持った人が、手に取るべき本としては最適な一冊なのではないかと感じた。

 

*1:プロデビューの1969年から話が始まっているので、それ以前については、言及があまりない。プライベートなことに立ち入らないということなのだろうが、特に、逝去した際に松本さんが「失語症」になるほどの衝撃を与えた妹さんとの関係については、もう少し突っ込んでほしかった気がしたが、難しかったものと思われる。

*2:他方で、そうした伴走する関係からの「卒業」については、語られていない。何か語られるだろうと思って読んでいて、何も語られないまま終わったので気になった。

*3:はっぴいえんどのメンバーという意味では、細野さん、大滝さんとの関係は語られるが、残る鈴木茂さんとの関係が語られていないのは、関係性が他とは異なったということなのだろう。