経理・人事・総務のツボとコツがゼッタイにわかる本 / 中小企業の経営を支援する会 (著), 田村亮人 (著, 監修), 鈴木郁子 (著, 監修)

一通り目を通したので、既に書いたこと(昨日のエントリ)及び呟いたことを基に感想をメモしてみる。

既に書いたように、法務部門が、営業部門などに対して、管理部門のハブというスタンスを取ることには一定の意味があるわけで、そういうスタンスを取る際には、他の管理系の部署が何をしているか、概要だけでも把握しておくことが、いざ相談が来て、法務以外の所管の話を振り分けるときに適切な対応が取れることにつながり、有益ということになろう。また、そうした対応を取らないとしても、他の部署との業務の取り合い部分で「お見合い」が生じるのを防ぐ意味でも、前記の点を把握しておくことは有用と考える。

 

そうした意味で、ある程度コンパクトな形で経理人事総務の業務についての概要がまとまった本を読んでおくことは有用だろうと思う。とはいえ、それぞれの分野の専門士業としては、経理については、税理士(又は公認会計士)、人事については社労士、総務については、弁護士等*1が該当しそうなものの、前記のような本はこれら士業の一つまたは二つの方々が書かれていて、専門性という意味での網羅性(といっていいのか疑義があるが)という意味では心もとないものが残るので、前記各士業が共同で執筆した本はないのかと思っていたところ、今回そういう本が出て、しかも、編著者の一部については、個人的に存じ上げている信頼できる先生方が入っておられるということで買った次第。こういう発想の本は良いと思うので。

 

本書の内容については、書かれている個別の内容については、初心者にもわかるように丁寧に説明をされていると思うのだが*2、その分、図表とか、見本で示す部分を上手く使ったとしても、文字量やトータルのページ数は増え、こちらが書店で比べた限りでは、類書に比べて著しく文字量が多いように見受けられる。この点は好みの分かれるところだろう。多忙な方にとっては、この文字量には負担感を覚えるかもしれない。

 

それと疑問だったのは、結構細かい話が多く、また、イマドキらしく、テレワーク関連のまとまった記載もあって*3、それはそれで、こちらのような読み手にとっては良いのだけど*4、本書の主たる読者層である「一人管理部」の方にとっては、ここまでの内容が必要なのか、疑問が残った。文字が多く、必ずしも必要とはいい難い情報が多いとなると*5、主たる読者層に対しては遡及しづらいかもしれない。

 

この点は、おそらく主たる想定読者層がどこまでの情報を求めているかについての吟味がもっと必要だったのではないか感じるところ。また、顧問契約などされている士業の方に委ねるので「一人管理部」の方のレベルで把握している必要のない話は、バッサリと落とした方がよかったのかもしれない。一番良いのは実際に「一人管理部」をされている方々に、そのあたりの話を聞くことではないか*6

 

それと、それぞれの分野の動きが速いところもあるので、記載の根拠となる条文・通達などの類についてはネット上追いかけられるものについてはURLまで付して、もっとこまめに言及しておいた方が良いのではないかと感じた。

 

あと、細かい誤字の類が多かった。一番気になったのが巻末の表で、業務の分担を経理・人事・総務・システムで分けるかのごとき記載が一部にあるが、実際にはシステムは分担には入ってこない。最初はその4つにわけて書くという発想だったのが途中で変更になったということなのかもしれないが。いずれにしても、もっと編集段階で、プロの編集者が手をかけているべきだったのではないかと感じた。良い発想に基づく本と思われるので、そういう過程を経ることでもっと良い本になるのではないかと感じた。

*1:総務については弁護士又は司法書士が思いつくが、それで足りているのかは疑義があるように思う。

*2:もっとも各士業の専門性にかからない部分の業務は、特に総務でぬけている気がする。例えば冠婚葬祭対応とか。また、弁護士の職域と思われる分野でも、労災事故対応やクレーム対応については言及があるべきと考えるのだけど、それらについては記載がない。ある種非通常業務ではあるが、一定確率で生じうる以上は、これらについても記載があるべきと感じる。

*3:ただ、利点だけ語られていて、コスト面への目配りが十分なされているのかは気になった。固定費になる費用のはずなので、特に規模の小さいところではその点の注意が必要なのではないかと感じた。また、電子契約についての部分は、契約締結権限の内部的な処理への言及がなくてよいのかは疑問が残った。

*4:個人的には、社会保険関係の手続きの詳細な説明には眩暈を禁じえず、目が文字面を滑っただけだったが、棚卸資産の棚卸の実査の詳細とか固定資産の管理の詳細とかは、関与したことのない話なので、興味深く読めた。

*5:ついでいうと、本書は相対的にお高めである。こちらは気にしないが

*6:その種の行為をされているのであれば、謝辞その他に出てきそうな気もするが、見当たらないのでされていないのかもしれない。