河岸を変える際には

お久しぶりの #萌渋スペース ネタのエントリです。

お題は「転職する前後の振る舞い」*1というところ。出る側視点と送り出す側視点に分けて書いてみる。出る側も送り出す側もともに体験したことがある(謎)ので、エントリを書きやすいような気がする*2。なお、内容の一部はこちらのエントリの内容とも重なることになるが、ご容赦いただきたい。

 

 

出る側視点

転職する旨をいつ伝えるか、注意点は?
転職する旨を伝えるタイミングを決めるうえでの考え方としては、まず、最低限次の条件は満たす必要があると思われる。

  1. よほどのことがない限りは、退職に関する社内ルールは履践する。就業規則で1月前に退職を申し出る旨の定めがあれば、遅くともそれまでには申し出る。もちろん、退職を申し出る場合の手続的要件が定められている場合はそれに従う。その他の点についても同様である。退職を争われたり、余計な手間が転職後に生じるのを避ける意味で、これらの点は重要。これらの例外は、心身の不調などにより、定められた手続きを履践することが困難な場合くらいであろうか*3
  2. 次に行く先が決まっている前提で転職するのであれば、次のところとの書面による合意の成立は確認してから、退職の申出等をすべきだろう。オファーレターがあって、署名等して返送するなら、自分が返送したものを相手が受領したのを確認した後が無難だろう。要するに、「次」に行けることが確定してから、ということ。無職の期間を置く前提なら、気にしなくても良いのかもしれないが、無職状態それ自体が、精神安定上良くないように思われるので、個人的には、次を確保しない形での退職はあまりお勧めはしがたいと感じる。

次に、状況から見て可能であれば、次の諸点も、退職の旨申し出るタイミングを考える上では考慮すべきと考える*4

  1. 実際の退職日までの間がどうなるか。外資のように、退職を申し出た瞬間にメールなどが使えなくなる可能性があるのであれば、引継ぎとかを全部準備して、誰かに託して、その上で申し出る、とするしかないかもしれない。それで自分に不都合が生じないのか*5というあたりは考えてみる必要がある。その際には、有給休暇の残り日数とか社会保険上の便益が次への入社まで切れ目なく享受できるかも考える必要がある*6。情報が限られていて、分からない部分が残るかもしれないにしても、この点のシュミレーションはしてみるべきと考える。
  2. 後任の引継ぎがどうなりそうか。引き継ぎ相手さえ決まっていて、引継ぎをしてしまえば、後はどうでもいいのかもしれないが、転職後に問い合わせが何らかの方法で来たりすることも、特にプライベートの連絡先を開示している場合には*7、想定される。転職後の職場で業務に集中できるよう、転職後の自分の手間を減らす意味では、よりよい形で引き継ぎができるタイミングで退職の旨申し出ることは考慮に値する。人繰りとかの関係がどうなりそうか、考えてみても、損にはならない(考えたうえでどうするかはまた別の話だが。)。

タイミング以外の点の留意事項という意味では、次の辺りは最低限抑えるが必要であろう。

  • 申し出る相手に1対1で言う方が望ましい。衆人環視の中でいうような話ではないだろう。
  • メールとかチャットでいうのも必ずしも適切ではないとみるべきだろう。言われた相手からすれば色々訊きたいことがあるはず(以下に上司視点で訊くべきと感じることはリストアップしてみた)なので*8。対面が難しくても音声通話くらいは必要であろう。
  • 慰留される可能性に対応した想定問答くらいは用意しておくべきだろう。もっとも転職先での待遇と現在の待遇の差が十分大きければ、それ自体が十分な対策になるだろうが。

 

慰留されたら

基本は、応じない、ということになるだろう。
何故なら、仮に慰留されて残っても、少なくとも一度退職を口にした事実は、言われた側の頭の中には残るし、その事実が、その社内で、自分に有利に働くことは、おそらくないうえ、不利に働く可能性の方が寧ろ高い*9。慰留されて残るくらいなら、転職すると言い出さないほうがいいと感じる。

例外は、上記の危険を大幅に上回る何かが得られて、総合評価をした結果、危険を覚悟してでも残る価値があると判断した場合か、そもそも出戻りとかが頻繁で、退職の撤回が不利益に作用しないことが経験上明らかな場合、程度ではないか。2022年時点では、特に所謂JTCでそういうものがそうそうあるとは思い難い。

なお、このことは、転職予定先に不測の事態が生じた際に、転職を取りやめて退職を撤回する余地を可能な限り残しておくこととは、必ずしも矛盾しないことも付言しておく。つまり、ある種の非常手段として、退職の撤回のオプションは残せるだけ残しておくべきということになる。もっとも、先に述べたリスクがあるので、そのオプションは、「その次」が見つかるまでのつなぎと考えた方が良いように思われる。

 

引継ぎの時の注意点

日ごろからいつでも引き継げるようメモを用意しておくのがベストだけど、そう簡単な話ではない。いずれにしても、言った言わないを防ぐ意味では、重要な部分については、書面(電磁的な形も含む)で引き継ぐ形が無難であろう。入れるべき情報は、最低限次のようなものが含まれるのではないか。

  • 日次・週次・月次・年次等での定期的又は定例業務のやり方
  • 非定型業務について、特筆すべきことがあればそれを
  • 各種資料のありか(電子データについてはサーバー上のものも含む)
  • 業務上必要なID/パスワード
  • 社内外の関係先の連絡先(なお、可能であれば面談などして顔合わせまでできると良いのは言うまでもない。これらが出来ない場合は、メールでの後任紹介はしておく方が良い。)
  • 直近の仕掛業務の状況

また、自分の退職と共に消去などされる可能性のあるデータで、後任者が使用すべきものが想定される場合には、当該データが引き継がれるよう、適宜の処理をする必要があろう。

 

それから、転職が決まると、気持ちは切れていることもあり、以前よりはパフォーマンスが落ちる可能性があることも留意する必要がある。引継ぎについてもこれは当てはまる。だからこそ普段から準備しておく方が良いのだが。

 

転職するまでの間に、元所属でやるべきこと

退職を前提にしている以上、それほど多くはないと思われる。もういなくなることが決まっているが故に、如何に円滑にあと腐れなく離脱するか、ということに注力すべきだろう。

  • まずは引継ぎを淡々とすること。これが最優先。気持ちが既に離れている以上、十分なパフォーマンスが発揮できない可能性には注意が必要だろう。
  • 新しいことは引き受けないこと。いなくなる人間が迂闊に新しいことに手を染めるのは賢明ではない。引き継ぐ手間が増えるということもあるし、気持ちが既に離れている以上、十分なパフォーマンスが発揮できない可能性があるからである。
  • 転職の事実は上記の2つを遂行するうえで必要な限りで開示し、それ以外は最後の最後まで言わないこと。転職に対しては色々なことを考える人がいるので、余計なことは言わないほうが余計なトラブルは減る。変な詮索を受けたりする可能性もあるうえ、環境を変えることになる以上、それ自体でストレスがかかるというべきだから、回避可能なトラブルの種は回避すべきである。最終出社日にあいさつ回りまたはメールでの連絡をするまでは、言う必要のないことは言わないほうが無難と考える。
  • 現職を安易に批判しないこと。次以後の職場でどういう形で現職と接点が生じるかはわからないし、うっかりすると出戻る可能性もゼロではない。そういう意味では安易に批判するのは避けるべき*10。仮に改善すべき点を訊かれて答える際にも、批判めいたニュアンスは可能な限り避け、将来に向けた明るい改善提案という形を取ることの方が無難。
  • 繰り返しになるが、退職までの社内手続きは遺漏のないようにすること。次のところに行ってから、残務処理が生じるのは適切ではない。保険証の返送以外はゼロにできるのではないか。
  • 必要な範囲で連絡をすること。事前に伝えていない相手に対しては、最終就労日にすることになるのだろうが、転職後にいつどこで接点が生じるかわからないので、礼を失しないよう遺漏のないようにしたいところ。その際も不用意な発言をしないよう注意が必要であることはいうまでもない。
  • 現職から持ちだすものは、純粋な私物のみにすること。漏洩の疑惑を受けないためには必要な措置だろう。迷ったらおいていくのが良い。処分に困るものでも、処分は残る人間に託すのが無難。

転職するまでの間に、新所属での勤務のためにやるべきこと

新所属からの特段の指示がない限りは、必須のことはないのだろう。ただ、やっておくと有益なこととしては次のことがあるだろう。

  • 有給消化期間には、休養を取る。特に最終出社日前後は疲れることも多いし、退職それ自体が疲れるプロセスなので、疲弊しているだろうから、次への気持ちへの切り替えも含めて、しっかり休養を取っておくことは重要だろう*11
  • 畑違いの業種に行く、担当業務が従前と異なる場合などについては、これまで知見を蓄えることができず、今後知見が求められることが想定される分野について、知見を深めることは有益だろう。もっとも、実際に入ってみたときの実務が十分見えているわけではないところで、どこまでの知見が深められるかについては、必ずしも明らかではないことにも留意しておくべきと考える。


転職後、何をすべきか

よく言われることは、次のところに早く慣れること、と、安易に前職との比較をしない*12ということになろう。一般論としては、それ以上のことはないように思う。

 

 

送り出す側視点

逆に部下を送り出すことになる上司視点で見ると、どうなるか。基本的には、これまでに述べたことの裏返しになる部分が多いが、追加でいくつかのことをメモしてみる。

退職の申出が来たら

一応いくつかのことをまず確認するのだろう。

  • 退職予定日。ここから有給休暇の残日数を勘案して、最終就労日が決定され(幅のある範囲で決まることもあろう。)、それらを前提に、引継ぎに使える時間を考えて、引継ぎの段取りを考え始めることになろう。人繰り次第では派遣社員の利用なども考えられるだろう。場合によっては、引継ぎ時間を確保するために「次」との交渉を依頼し、退職予定日を変えてもらうことを試みる必要も出てくるかもしれない。
  • 退職後の身の振り方、転職先の有無、及び、「次」がある場合の具体的な転職先。「次」が競業の場合には情報漏洩リスクを考える必要もあるだろう。また、好むと好まざるとに関わらず慰労を試みる必要が出ることもあるだろう。その際に「次」の有無等は重要だろう。無理やり聞き出すようなことまではすべきではないが、訊いてみることは必要だろう。
  • 退職理由。正味の転職理由を伝えてもらえるかどうかはさておき、ここも一応訊くべきだろう。慰留を試みる際の鍵になったり、慰留を断念させる際の鍵にもなり得る。残る人員への対応の改善点のヒントが見つかることがあるだろう。なお、最終出社日にexit interviewをして、最後にもう一度聞いてみるのも有効なのかもしれない*13。引継ぎも一応終了して、あと腐れがないとなって初めて言えることが出るかもしれないので。

慰留及び退職の撤回について

慰留すべきか。上記からわかる通り、しても無駄ということの方が多いだろう。もっとも諸般の都合で無駄と思いつつも試みざるを得ないこともあるのだが。慰留するくらいならば、退職時期というか最終就労日を遅くするよう交渉して、業務の引継ぎ期間を長く取る方が現実的と思われる。特に転職先が決まっている場合にはそうなることの方が多いだろう。

他方で、何らかの事情により退職が撤回された場合は、どうするか。残ることにはなるだろうが、一旦気持ちが切れていることから、パフォーマンスの低下が想定されるので、その点のケアが必要になるのではないか。また、退職を申し出た理由については、その解消のケアをしておかないと再度の退職の申出が起きる可能性がある。もちろん、既に気持ちが切れている以上、何をしても無駄という可能性もあることにも留意が必要だろう。

 

退職までの間にしてもらうべきこと

  • 退職が撤回されない限りは、引継ぎに遺漏なきようにしてもらうというのが最優先になろう。
  • 当然のことながら、新しいことは、最終出社日までに終了しない限りは、依頼しないことにするのが良い。実際はそうもいかないこともあるだろうが。
  • のみならず、機微に触れるその他の情報についても、接しないようにするという措置が必要なこともあろう。潜在的な漏洩リスクを減らすことがある。実際僕自身も過去の職場の退職に際して、そういう対応をされたことがある。
  • 万が一の際の連絡先は把握しておくべきだろう。通常は人事が把握しているだろうが。
  • 退職後にどういう形で接点が生じるかわからない。その意味で、出来る限り、気持ちよく送り出すことが、送り出す側の務めということになろう。

*1:なお、鮨は振る舞わない。あれは某先生の専売特許(古)なので。

*2:なお、言うまでもないが、以下は、こちらの現時点での体感に基づくものであり、異論があり得るし、こちらの見解も今後変更される可能性があることは言うまでもない。

*3:そういう場合は、寧ろ代理人を立てるのが素直なアプローチかもしれない。この場合でも、非弁行為に該当することのないようにする必要があるのは言うまでもない。

*4:特殊な事例なので汎用性がないが、個人的には、初職で退職の旨申し出ようとしたら、その年のLLM派遣が決定されるタイミングだったので、こちらの退職の申し入れでLLM留学が取り消されることのないよう、決定を待って申し入れをしたことを思い出した。

*5:その際、対象業務に対する思い入れとか自分のこだわりは捨象すべきであろう。関与の仕様もなくなるはずだから、後は野となれ山となれとしかできないはず。

*6:自分自身のみならず扶養家族についても視野に入れた確認が必要になることは言うまでもない。

*7:人事も含めれば社内の誰かが知っていることが通常のはずだし、退職後の事務との関係では一切開示しないというのは、通常はしづらいと思われる。

*8:特定の相手に対して伝達するのが困難であれば、別の相手に言うという手はあり得るだろう。

*9:ここは、定着率に反比例するように感じる。

*10:退職エントリの類を書く場合も同じことが当てはまるし、あの種のエントリは書かないほうが無難と考える。

*11:必要に応じて、周囲の関係者への慰労も忘れてはならないことは言うまでもない。

*12:特に求められていない限りは、最低半年くらいは、批判せずに黙って見ているのが無難だろう。

*13:その際には守秘義務や情報漏洩がないことについて再度念押しすべきなのはいうまでもない。