それがすべてか

益体もないメモ。先日のエントリの続きのようなもの。例によってこちらの体感に基づくものなので、異論などがあり得ることはいうまでもない。

 

色々考えた末、企業間のトラブルについて、訴訟に訴えたとする。さて、それだけで良いのか。おそらく、答えはnoということが多いのではないか、と感じるところである。

 

まず、そもそもその訴訟はどこかに着地しなければならないし、そのためのロジスティクスめいたところまで考えて、導くのが企業内法務の職分の一つだろう。社内の証拠資料の収集確保*1や、訴訟進行を外の事務所に委任する場合の弁護士費用のコントロールや予算確保などがここに含まれるが、これらには限られない。

 

次に、もっと大事なことは、生じている紛争のありとあらゆるものが、法廷に持ち込めるわけではないということだろう。要件事実に従った整理からは零れ落ちることが出てくるだろうし、零れ落ちなかったとしても訴訟戦略上、盛り込まないほうがよいこともあるかもしれない*2。そういうものに対して何もしなくてよいのか、ということも考えるべき時がある。

 

試みに、メーカーで生じうる訴訟で考えてみる。製品の不具合から買手側に損害が生じたとして、買手から売手に損害賠償請求訴訟を提起するとする。生じた損害については、その訴訟の場で適宜の解決がなされることが想定可能だろう。ただ、それだけで良いのか、というとどうだろうか。両者の信頼関係とかも重要だが、仮にそういう感情的な部分を捨象したとしても、買い手側は、問題の生じた製品に限らず、当該売り手からの製品を継続して購入し続けることが必要となることもある。トラブルを起こしたから関係途絶と簡単にいかないこともある。サプライチェーンの最下流でないところでは、取引相手の変更に第三者の承諾が必要な場合もあるし、そもそも代替的な取引相手が必ず見つかるという保証もないこともあろう。そうした場合には、買手側としては、売り手側で再発防止策を講じることを求めたくなるのではなかろうか。とはいえ、損害賠償請求訴訟の中で、これらについて議論することはおそらく難しいのではないかと考える。損害賠償請求訴訟は基本的には過去に生じた損害の清算であるため、今後に向けた再発防止策を議論することは、そのような訴訟の通常の過程の中では考えにくいからである。和解協議の中で議論することは不可能ではないかもしれないが、常に可能とまでは言い難いように思うし、そもそも当事者の態度次第では、実質的な和解協議が開かれない可能性もゼロではないだろう。

 

そうなると、訴訟とは別に、こうした部分への手当ても必要という話になる。これに限らず、訴訟提起が紛争のすべてを解決するとは限らない、ということは広く当てはまるのではなかろうか。そうなると、企業内法務の立場では、訴訟以外も含めた紛争全体の解決に向けて、目配りをすることが求められるものと考えるべきだろう。

*1:人証について立証することになる場合の、証人候補者の証人適性の吟味なども含まれるかもしれない。

*2:当事者の、特にその上層部の感情的な部分などもこうしたものに含まれることになろう。