その手の意味は

例によって呟いたことに基づくメモ*1

 

企業が戦略的に訴訟提起することの是非という話がTL上に出ていた*2。この論点については、論者の立ち位置ー企業の外にいるか、企業内にいるか、企業内でも、所謂JTCか、外資系か、それ以外か、業種的には、事業会社か、金融などそれ以外か、というあたりーで見え方が変わる話というのが、こちらの体感するところ。

 

こちらのような、主にJTCのB2Bの事業会社の企業内法務にいる立場から言えば、紛争解決の手段としての訴訟は正直よい手でないことが多い、というのが印象。訴訟提起については、まず、相手との関係を悪くする可能性がある。相手、特にその上層部に、感情的になられたりすると、軌道修正が困難だったりする*3。それは、同じ相手と形を変えて繰り返し取引の可能性があるところでは、「江戸の敵を長崎で討つ」ことをやられかねないリスクを孕むことにもつながりかねない。これらに加えて、訴訟の存在それ自体に起因するコスト(総会の想定問答とか)も考える必要がある。もちろん弁護士費用などのコストも考える必要がある。なので、訴訟に訴えるべき時があることは知りつつも、実際に訴訟提起すべき、という判断になるのは*4、限定的なのではないかと考える。

 

具体的には、少なくとも次の諸点が充足している必要があるのではないかと考える。

  • 相手との関係に悪化により生じる将来への負の影響がない、または、無視できる程度に留まることがかなりの確度で読めている。
  • 訴訟遂行の見通しがかなりの確度で読めている*5
  • 弁護士費用などの遂行コスト*6が許容範囲内であり、費用対効果の意味でも正当化可能(費用倒れにならない)。
  • 訴訟について総会などで訊かれても困らない程度の準備が可能。

これらがすべて充足しているような場合は、おそらく訴訟提起まで至らずに解決可能なのではないかとも感じるし、その可能性はまず追求すべきだろう。

*1:いつものように本エントリの内容は、個別にお名前は挙げないものの、TL上で接した様々な方の呟きの内容も踏まえており、該当される方々にはお礼申し上げる。勿論内容については当方のみに責任があることは言うまでもない。

*2:訴訟以外の仲裁などについても以下の議論は一定程度あてはまる部分があるかもしれないことは念のため付言しておく。

*3:この辺りは企業内の話なので、外の先生方には見えづらいことがあるものと考える。

*4:債権回収案件で、回収不能と知りつつも、貸倒損失として損金処理するために、訴訟提起すべきという判断になるのが、ある種の典型例だろう。

*5:個人的にはここが一番難しいと感じるところ。こちらに不利な証拠が相手方の手元にないかというところが、読めないことが多いように思われる。

*6:弁護士費用などの企業外に出ていく金銭だけではなく、社内で対応に要する労力や時間の価値も踏まえる必要がある。