新人弁護士カエデ、行政法に挑む /大島 義則 (著)

一通り目を通したので感想をメモしてみる。司法試験・予備試験の受験生・ロースクール生は、適宜の時期に読んでおくべき一冊であろうと考える。

 

昨日のエントリでも書いたが、2回に分けての講演(1回目2回目:まだ視聴可能なので、上記の方々は視聴はお早めに。)を聴いたこともあって購入したもの。こちらが、まがりなりにも弁護士ということもあってか、読み易い文体も相まって、一通り目を通すのにはそれほど時間はかからなかった。

 

表題のとおり、新人弁護士が2つの行政訴訟に挑戦するのを見ること、特に、ボス弁とのソクラテスメソッド的な問答*1がなされるのを見るのと、解説記事*2とで、行政訴訟における主張立証の在り方や、事例問題での答案の書き方を学ぶことができるのではないかと思われる*3。訴訟提起前の部分も含め、弁護士が行政法を実務でどのように使うかというイメージが湧きやすくなる点も学修上では有用だろう。

 

そういう効用を十二分に享受する意味では、行政法について、最低限のインプットをして、事例問題に向き合う頃に、本書を読むと、最も効果的なのではないかと考える。ラノベ特有の?、ご都合主義的な展開*4により軽快に進むから、読みにくいわけではないとしても、最低限のインプットがないところで本書を読むのは、おそらくシンドイのではないかという気がした。

 

個人的には、上記の講演でも触れられていた、事案検討時の思考の流れとしての4段階検討プロセスや行政紛争の4パターンはなるほど、と思いながら読んだし、2つ目の事件の展開については、「元ネタ」となった事件のことも思い起こしながら、今どきのやり方だなあと思いながら読んだ。

 

また、入門書という位置づけから、この先の文献案内があるのも、良いと感じた。著者たちの「実務解説行政訴訟」まで含まれていなかったのは、受験用という性格を意識したのか、紹介すると、受験対策にそこまで読まないといけないと誤解されかねないという配慮なのか、気になった。もう一つ、所謂基本書の一冊本について、「基本行政法」の取り扱い方が、やや微妙な気もした。著者としては必ずしも評価していないが、人気があるので言及しないわけにはいかない、という感じで言及しているかのごとき印象を受けた。

 

いずれにしても、司法試験突破を目指すうえでは有用な本であり、一読すべきと考える。

 

*1:ある種のOJTと見ることも可能だろう。

*2:地の色が変えられているので、区別がつきやすい。

*3:僕自身は、今は訴訟のない企業のインハウスであり、イソ弁時代も行政訴訟には一切縁がなかったので、弁護士にとっての本書の価値について何かを軽々に語るべきではないのではないかと感じる。攻撃防御の在り方などについては有用なはずだとは思うのだが...。

*4:主人公(未成年故にどこの事務所でも採用されないという設定だが、実際は最年少というのを宣伝塔に使う目的で採用する事務所が出るのではないかという気がする。)やボス弁(訴訟として、件数の多くなさそうな行政訴訟について、徹夜の宴会明けに、主人公の書面にソクラテスメソッドで突っ込みを入れられるだけの学識がある3年目の弁護士(しかも即独)ってどうよ...ということは言ってはいけない。)のみならず、依頼者やヒアリング対象の人間も含めて能力が高すぎる気がするが、そうしないと話が進まないだろうから、この辺をあげつらうのは野暮という気もする。