誰のために、何のために

例によって(汗)、#萌渋スペース向けのエントリ*1として順不同の雑駁なメモを書いてみる。

今回も、こちらの体感と想像*2に基づくエントリであるうえ、自分の現在過去未来のことは棚にあげていること、異論があり得ることはいうまでもない。

 

0.はじめに

今回のくまった先生からのお題は、ざっくり言って企業の社内研修。以下では、企業内法務系の部署*3が主催する法務系の研修に限定して考える*4。事前に3人がDMで*5話をしたところ、良さそうだという話になってこのネタになった。

 

 

1.何のために?

社内研修はいくつかの目的でなされると考える。とりあえずは、仮に、大きく2つに分けて考えてみる。この両者が常に截然と区別できるとは限らないことは言うまでもない。

 

(1)実施それ自体が目的のとき

制度とかの周知徹底につき、努力義務も含めて義務付けるような規定*6があったりすると、そうした規定への対応の一環として研修がなされることはよく見られる。ハラスメント対応とかが分かりやすいだろうか。それ以外もネタ的にはコンプラ系が多いのではないか。単に一方的にイントラネットで情報を流しっぱなしよりは、相対的には実効性が期待できると思うことにする、という感じになろう。

また平時だけではなく、「有事」への対応として、研修で周知徹底を図るということもあろう*7

こうしたものは、開催の事実が記録されることそれ自体に一定の意味があったりするので、実効性とかは、その当否はさておき、二の次ということになりかねない*8。特に、強行法規違反に対する更生プログラムの一環として実施されるような場合は、そういう立ち位置になるのもやむを得ないのだろう。

(2)何らかの知識・技術の伝達・教育目的

何らかの強制力とつながる話とは別に、伝えたいことがあって、その手段として研修を行うこともある。当節流行りの電子契約とかを導入するような事案を考えると、関連する社内システムの利用法の説明も含めた利用者への教育の一環として研修を行うのも含まれるだろう。

 

これら2つのいずれか又は両方と、実態調査が組み合わさることも多いように思われる。要するに本来あるべき規範を周知するとともに、当該規範を適用する対象である生の現実?がどうなっているか、ということを調べるという形になるわけである。メーカーの場合は、下請法とか偽装請負対策について、そのような形を取ることが多いのではないかというのがこちらの体感である。実態調査の結果、何らかの対応を取る・取らない、という意思決定がなされることも、また、見られるところである。

 

さらに隠れた目的として、前記の各目的に加えて、法務部門の状況次第では、その社内での認知度向上ということもあるかもしれない。「顔の見える」法務部門となることで、「敷居」を下げるということも期待できるのかもしれない。「敷居」を下げることは、情報が早期に入ることにつながる可能性がある。そうなると、何か問題と思われる事象が生じた際に、取り得る手立ての幅が広がることになり、より適切な打ち手を講じられる確率があがることになるはずなので、それ自体十分なメリットのあること、という見方も可能だろう*9

いずれにしても目的や獲得目標を明確にしておくことは重要と考える。

 

 

2.どういう内容を?

上記のような目的を前提にすると、如何なる内容の研修をすることになるのであろうか。ざっくりと2つにわけて考えてみる。こちらも相互に排他的とは限らない。

(1)コンプラ系:法令・内規に関する解説

分かりやすいのはこちらだろうか。強行法規等の改正を受けて内容を説明するもの。理解を深めて、違反などが生じないようにすることが狙いとなることも多いと思われる。

解説対象となるのは、法令もそうだろうし、内規についてもなされることがあると思われる。いずれにしても違反が生じては困るという意味では共通しているから。

(2)ビジネス系:雛型解説や実務的な知恵の展開

コンプラとは関係ないもので思いつくのは、契約書の雛形の解説のようなもの。契約書の雛形もその企業のビジネスの内容や、ビジネスにおける立ち位置・力関係やこれまでの歴史を反映しているのが通常なので、傍目で見るほどわかり易くないこともあり、そういう意味では解説をすることに意味がある場合も出てくる。

雛形解説だけではなく、好事例の水平展開のようなものも含まれるだろう。ただ、こういうのは企業内法務がする話かというと疑義があるかもしれない。寧ろ事業部門側で行う方が良いのかもしれない。

 

 

3.内外の別は?

次に、目的・内容を踏まえて、誰が話をするか、を考えてみる。特に社内でやるか、社外の誰かがするか、というところが一つ考えどころという気がする。費用の問題を別にしても*10、いくつか考えるべきポイントはあるのではないかと思われる。

(1)社内でやったほうがいいとき

まず思いつくのは、社外ではできない場合というのが想定でき、こういう場合は社内で対応するしかない。

例えば次のようなものが思いつく。

ア 社内のシステムとの連携が必要なとき。システムに関する部分はシステムの人間が説明して、そのシステムの利用にまつわる法的な話を法務がする、という役割分担をすることが想定しやすいと思われる。

イ 実態調査を伴う、または/及び、社内での意思決定につなげないといけないとき

例えば、メーカーのM&Aで吸収した工場が自分で資材調達の発注をかけていて、吸収前は規模的にむしろ下請事業者に属する規模だったのが、吸収によって親事業者側に回るようなケースとかを考えてみる。そうなると、現場は下請法について認識が薄いことも想定され、親事業者としての法令遵守に疑義がある(親会社ではなかったのだから、ある意味では当然のことであることは留意が必要だろう)ということもある。PMIの一環としてそういう現場に対して、下請法の教育をするとともに実態調査を行い、問題となりそうな点を洗い出して、対応策を協議するというような話になると、社内でしかできないということになろう。特に対応策については、場合によっては内部調整が必要なこともあろうから。

(2)社外に講師をお願いした方がいいとき

では逆に、社内でやらないほうが良いときとはどういうときか。社内で研修できるだけの知識ノウハウがない場合というのは、社外に依頼せざるを得ないが*11、それ以外にはどういう場合があるか。ここで、「危険物処理班」という言葉が脳裏をよぎる。ここは2つの意味が想定される。これらに該当する場合は、仮に社内で出来ると判断できた場合でも外に対応を依頼することも考えることになろう。

ア 受講者が「危険物」

語弊のある言い方ではあるけど、偉い人とかで、迂闊なことをいうと、こちらの身が危うくなるケースということ。上層部に厳しいことを言うために、ある程度権威のある外部の先生*12にご出座いただくことも出てくるだろう。

イ 内容が「危険物」

デリケートな内容であるがゆえに、社内の人間がやるに適さないというものもある。コンプラ系でも、ゼロ・トラレンスで頑張り切れるときは良いのだが、それ以外の時は判断が難しいがあるのは事実だろう(さすがにこれ以上はちょっと書きづらいので略)。

 

 

4.誰がするのか?

(1)社内では?

法務部門の中の誰かが講師をする場合、部門長がやるのか、管理職クラスがやるのか、ヒラがやるのか、というところもあろう。この辺りは、研修の目的(獲得目標とでも言うべきか。)や受講者の職位をにらんで検討することになるのではないか。上位職層が相手であればヒラがやっても、説得力が出ない可能性もあろう。逆に度胸を付けてもらうという意味でやらせる(その場合は上司がサポートをする前提が必要だろう)というアイデアもあり得るのかもしれない。

さらに、内容的に一番詳しい人間がするのも手だが、しゃべる人間は別にして、質疑へのサポートに回ってもらうのも一案だろう。

(2)社外では?

誰も伝手がなければ、その分野に詳しそうな先生にお願いに行くという形になるのかもしれないが、顧問弁護士がいる場合には、その先生・事務所に頼むのか、ということも一応考えてみる必要はあるだろう。他の先生に研修だけ頼んだところ、その後その分野に関する相談が来て、相談に対して顧問弁護士の言うことが、研修での内容と整合しないようだと、社内的なトラブルの原因になりかねない。そういう可能性が高いとは思い難いが、可能性がゼロと言えるかどうかは個人的にはよくわからない。

それとは別に、外部の弁護士を「お試し」として研修をしてもらうということも、一応想定可能だろう。研修の準備のやり取りや、研修それ自体、質疑などの様子を通じて見えてくる部分もあるだろう。

 

 

5.気を付けるべき点は?

とりあえず思いついた点をいくつかに分けてメモしてみる

(1)目的・内容と手段との整合性

ア そもそも研修でする話?

資料配布とかで済ませれば足りるような簡単な話じゃないのか、それとも、全体への研修というようなぬるい話ではなく、個別に話を聞くなり説教をするなりしないといけないような、洒落にならん可能性のある話じゃないのか、というところは考えないといけないはず(というか、その両者ではないから研修なんだろうけど)。

イ 媒体の問題

イマドキだと、物理的に一つの場所に集めなくても、ある程度以上のことはできるから、殊更に一つの会場に集めるのか、それとも、複数の会場(個別に自宅からzoomなどで入るのも含む)をネットでつなぐのか、というようなことも考える必要があるだろう。後者の場合は所謂break-out roomを使うことも、内容次第では出てくるだろう。その辺りの操作への習熟も必要となるかもしれない*13

また、予定の合わない人向けに録画して後で視聴という形を取るのかどうかということも考える必要があるだろう。

ウ 講義メインか思考メインか

一方的な講義スタイルか、議論などを通じて受講者に主体的に考えてもらう手段を組み入れるかという点も考える必要がある。後者の場合は、議論などがどう転ぶかわからないという危険をどう考えるかという点が重要になるのではないか。

エ (定番)資料はどうしようか問題

プレゼン形式だと、文字ばかりの資料は受けが悪いが、カッコいいプレゼンだけだと、後で見返しても何がなんだかわからない可能性がある。なので、文字量多めは仕方ないのではないか。勿論、文字多めになる部分は別途word ファイルとかで準備する手もあるが、ファイルが複数になるのはそれ自体煩雑なので、個人的には一覧性を重視して、全部パワポで、文字多めでもやむなしと感じている。特に内容がコンプラ系の場合は、受講者が手元において、参照できるようにすることを考えるとそういうことになるのだろうと思う。

(2)目的・内容と聴衆との整合性

ア そもそも聴衆は誰なのか

人を見て法を説け、という言葉のとおり、相手次第で、内容も、示したい内容の示し方も変わるのは当然のことと感じる。聴衆の知識・研修内容への理解度などを踏まえない研修は、効果が出にくくなるのではないかと考える。その意味で、想定聴衆を明らかにすることは重要と考える。

イ その相手にどう語り掛けるか

想定聴衆層を明らかにしたうえで、その想定聴衆層に、どう語り掛けると伝わるか、ということを考える必要があると思われる。この辺りは、正直こちらもまだまだ修行中という感がある。

 

…雑駁な話に終始してしまったが、何かの参考になれば幸甚です。

 

追記:経文緯武先輩のお話はこちらからどうぞ。

tokyo.way-nifty.com

*1:いつものことながら、話し相手になっていただいているお二方及びお聞きいただく方々には心より感謝申し上げる

*2:書ける内容とそうでないものがあるということはいうまでもない

*3:機能としてのそれであり、実際の名称は問わない。

*4:情報発信という意味では、社外への情報発信を考えても良いと思うが、話が拡がり過ぎるので、ここでは脇に措く。

*5:議論している場のことをなぜかブルペンと呼んでいる。陰で投げ込みをするというところからなのだけど。お互いにリミッターをある程度解除しているので、内容は興味深いが、表に出せないネタが多すぎるのが難点。

*6:法令に限らず所謂ソフトローに基づくものも含む。

*7:その場合は、引き金となった「有事」について質疑が出たときにどう対応するかが難しくなることもあるだろう。

*8:もちろん、そういう場合であっても、主催者側としては、実効性を持ちうる内容にすることを志向すべきであることは言うまでもない。

*9:さらに隠れた目的は、法務の中の若い年次の方のトレーニングの一環として使うということも想定される。もちろん上の年次の方がサポートするのが前提になろうが。

*10:予算の問題は重要ではあるが、ある種所与のものなので、ここでは考えない。

*11:社内で出来るかどうかの判断は、内容について質問が出たときに、マニアックな論点を除いた大部分について自信をもって回答できるか、というあたりが一つの基準になるのではないかと思うがどうだろうか。

*12:偉い先生の場合は、些末な話は、してくれないというか何というか(謎)。

*13:イマドキだと当たり前にできるのかもしれないが。