続・NDAと暴排条項についてのメモ

以前のエントリに補足する意味でメモしてみる。

 

TL上でNDAに反社条項(暴排条項)を入れるのは不要ではないか、という趣旨の呟きに接した。こちらは不要と思う方だが、それとともに、この話題まだ出るのか、とも思ったのだった。

 

10年くらい前に次のようなエントリをメモしたのを思い出した。

dtk.doorblog.jp

 

このエントリを書いた時と考えていることに大きな違いはないが*1、自分の頭の整理のために再度メモをしてみる。

 

暴排条項は、要するに契約当事者双方が、自分の側が「その筋」でないことを表明保証し、相手が「その筋」とわかった時に、一方的に損害賠償義務なしに関係遮断ができるもの、と理解する。暴排条例によりその種の条項を契約に盛り込むことが努力義務化している。

 

特に、NDAの場合、NDAを締結して、情報をやり取りし始めた後、主に相手側にこちらから開示した秘密情報があるところで、相手が「その筋」と判明した場合、どうなるか、と考えると、そもそもその種の条項がうまく機能しないのではないか、という気がする。だから入れる意味に乏しいのではないかという気がするのだが。

 

まず、相手が「その筋」と断言できるか、というところから疑問がある。下手に判断を間違うと、営業誹謗行為とか名誉棄損とかにあたるとクレームされて、揉める危険性もある。データベースとかを作っても、相手が「その筋」と確証を持つのは簡単ではない気がする。そうなると、解除条項を発動すること、それ自体について、言うほど簡単なことなのか疑問がある。

 

仮にその点を脇においたとしても、暴排条項に基づき解除する旨相手に伝えるということは、必然的に、相手が「その筋」であるとこちらが判断している旨相手に対して明言することになる。こうした行為が何をもたらすだろうか。もちろん相手が素直に解除に応じてくれることもあるかもしれないが、相手がその点を争ったり、それまでの態度を変えて態度を硬化させる可能性もあるかもしれない*2。実際に「その筋」だとしても、そう悟られないように偽装していたのが、偽装をする意味がないとわかったとたんに本性を明らかにするかもしれない。そうなると、既に相手の手元にある情報について、NDAの解除の帰結として、こちらの望む形で返還など*3がなされない可能性も出てくるのではないか。

 

そこまで考えると、暴排条項を入れてもおそらく機能しない可能性が相応にあるのではないか*4。解除後の後始末まで円滑に行えるような形で契約関係から離脱できるようにする意味では、たとえ時間はかかっても、NDAに、事前通知のうえ理由なしでの解除*5を可能とする文言を入れて、相手が「その筋」とわかったところで、その規定を発動して通知をして爾後の情報開示を中止するとともに、そうした行為を容易にするために、NDAで自社側からの情報開示自体が義務ではない旨の規定を入れておくことを考えるべきではなかろうか。もちろん、そもそもNDAを締結して情報をやり取りするのに適した相手かどうかの選別も重要で、その中では「その筋」か否かの判断が含まれていなければならないことになるのではなかろうか。

*1:立場的に、この手の書類を自分で観なくなったということもあり、新たなことを考えるほどの材料に乏しい。

*2:法務の機能としては最悪に備える必要があるので、過度に楽観的な見方だけに依存することは必ずしも適切とは言い難いことは多言を要さないだろう。

*3:状況次第では廃棄を求めたいこともあろう。

*4:なので、あまり過度に拘る意味はないという見方もあろう。解除しづらいのであれば、表明保証が過度に広くない限りは、入れておいても実害はないという判断もあろう。

*5:その際に損害賠償義務を負わない旨規定することが出来ると良いだろう。