The Cost of Guilty Breach: Willful Breach in M&A Contracts

いつもお世話になっているznkさんがご紹介されていた、こちらのエッセイに目を通したので感想をメモ。分量がお手頃だし、内容も面白いので、この分野に興味関心がある向きはお目通しいただいても損はないかと。

lawdigitalcommons.bc.edu

 併せてレスポンスのこちらにも目を通した。

lawdigitalcommons.bc.edu

内容についてはznkさんが紹介されているので、そちらもご覧いただくとして、印象に残った点をいくつか感想と共にメモしておく。

 

やはり、一番印象的なのは、「アメリカ法上の契約違反は過失を要しない厳格責任(無過失責任)」(樋口アメリカ契約法2版p317の注54)であって、当事者の主観面を問題としないというのが良く言われるところであるのに対して、M&A契約という、双方の当事者が弁護士を起用していると考えられている類型(裏を返すと、こうした一般的な理解は分かったうえで、当事者はドラフティングを行っていると考えるべき類型)においては、一定の割合で、Wilful Breachについての規定を設けている、つまり当事者の主観面を問題にしていることが、契約書の実例の調査及び実務家への聞き取りから判明したというところ。

 

次に、そうした現象が生じた理由について、実務家の意見を次の3つにまとめている点も印象に残った。

  1. 「履行するか、それとも、損害賠償を払って契約関係から離脱するか」という発想を防ぐため。
    M&Aの当事者にしてもその代理人にしても、ある意味でローエコ的なその種の発想を受け入れるのかと思ったのだけど、そうでもないようなのが印象的だった。
  2. インセンティブのあり様を適正なものとするため。Wilful Breachについて規定を設ける場合、損害賠償の上限を設ける規定の対象外となることになり、これらを通じて、契約関係から安易に離脱するのを防ぐというもの。
    こちらの読み方の問題だろうが、最初の点との違いが、個人的には、良くわからなかった。
  3. 再交渉の余地を残すため。Wilful Breachについての規定を設けるとしても、Wilful Breachそれ自体の定義を設けないことも多く、そうした不明確で訴訟になった時の予見可能性が高くない用語を使うことで、締結後に再度交渉を行う余地を残すことになるというもの。
    契約書の文言のあいまいさを排除するばかりが能ではないというのは、個人的な体感とも一致する。あいまいさを排除しようとした結果、自分たちが不利になるばかりであれば、明確さを追求するよりもあいまいさを上手く使う方が良いという議論の余地はあると考えるので。