ジュリスト2021年2月号

遅まきながら、何とか目を通せたので、呟いたことを基に箇条書きでメモ。

  • 特集から見る。インターネット上の誹謗中傷問題。
    宍戸先生の論文は、最近の問題状況の概観と以後の論文の紹介、それから、以後の論文で触れられていないところの補充という形に見える。
    丸橋論文は、媒介者の責任に関する法制の現状などについてのようなんだけど、こちらの前提知識が不足しているからか、読むのが大変だった。欧米と本邦とを比較すると、元は同様の規制だったものの、最近ではPFへの規制に差異が生じているという点は興味深かった。
    垣内論文は、発信者情報開示手続について、新たな裁判手続を検討しているので、その概観と立法に当たっての論点と今後の課題を展望するもの。現行の手続きが迂遠に見えるのは確かなので、1回の非訟手続で対応できるようにするというのは納得しやすいところ。とはいえ、開示請求権の位置づけとか非訟手続でやるべき話か、というあたりの論点は、一筋縄でいかないところがあるようだし、今後の課題についてもまだまだ検討が必要そうなので、今後の動向も気にしておいた方がよさそう。
    北澤論文は誹謗中傷について。インターネット上の表現についての具体的な検討が参考になった。単発の呟き程度だと事実なのか論評なのかわからないということはあるよな、と納得。
    上沼論文は違法・有害情報を4つに分類して議論をしていて、その分類の仕方が個人的には興味深かった。2×2のマトリクスにしていて、片方の軸は違法かどうかだけど、もう片方の軸が何なのかは、僕にはよくわからなかった。
    曽我部論文は匿名表現の自由について、特集の内容との関係で論じたものというところか。匿名表現の自由をどのように理解するかというところからして面白かった(月並み)。末尾の匿名表現との関係で論じるべきその他の事項のリストもまた興味深かった。この問題はここにつながってくるのかというところの発見があるのは単純に面白い。
    最後に総務省の方から現状の施策の紹介が。既に他の諸論文で内容はカバーされているように見受けられるので、要否には疑義を覚える。
    特集は、プロ責法を巡る現状を概観という意味では面白かった。とりあえず新しい手続きがどうなるかが、気になるところ。
  • 裁判手続とIT化(以下略)の座談会も、IT化(という言い方がいいのかはさておき)が、今回の感染症禍で大幅に進んだことが分かる反面で、様々な課題が浮き彫りになったことが分かり、一弁護士として興味深く読むことができた。とはいえ、大仰なことよりもまずは準備書面とかのe-fillingを先にさせてくれと思うのだが*1
  • タイの堕胎罪規定の違憲判決と刑法典改正の記事は、タイに憲法訴願の制度があるという点と憲法裁判所がある点が個人的には興味深かった。
  • 判例速報等。会社法のものは、株主招集総会で誰に何ができるのか、どういう規制が及ぶのか、よくわからないという印象。リソースなどの面で会社側開催総会とは同じにはならない以上、明文で規定した方がよかったのではないかという気もしないでもない。
    労働判例速報は、劇団員の労働者性の事件。記事を読む限りは、そりゃこの事案の下ではこうなるよねとは思う。他方で、劇団側の事情を考えると、それだけでいいのかというのは別の疑問がないではない。そのあたりは年末の#legalACでのこちらのエントリを参照

    note.com


    独禁法事例速報は、受注調整型のカルテルで、同一物件に対して複数の違反行為が独立に成立しうるのか、やや疑問な気もするし、諸々辻褄があっているのか疑問が残る。
    知財判例速報は、特許法69条1項の趣旨からすればそうなるんだろうなという程度しかわからなかった。後発医薬品とかの話と同じような発想で考えることになるのだろうし。
    租税判例速報の裁判例は、不当性要件の判断枠組みは総論的には理解できるような気がするものの、各論というかあてはめ部分が簡潔すぎてよくわからないという印象。
  • 時の判例司法書士の責任についてのものは、司法書士の方々の依頼者でない人間に対する責任をむやみに重くしてしまうと、確かに不具合が生じるだろうから、判示されているあたりが妥当なのかもしれないと思った次第。
    2件目は、固定資産税の実務が分からないので、正直さっぱりわからなかった(涙)。
    3件目は、同じく子地底資産税の話ではあるけれども、実際は民法724条(改正前)の解釈問題で、一連のプロセスを経て被害者の損害が発生したとき、どこの時点を基準に損害が生じたかを見るのは納得しやすい。
    もう一件はストーカー規制法2条1項1号の「住居等の付近において見張り」の意義についてのもの。判示は解説を読むと理解可能だけど、取り上げられた事件で問題になったGPS機器の無断取り付け行為を本法での取り締まり対象にしなくてよいのかは別途個人的には疑問。
  • デジタルプラットフォーム事業者同士の経営統合判例研究は、指摘のある中で、垂直・統合型の審査を行っていない点は確かに気になった。市場選択の当否はわからないけど、選定した市場の中で水平方向だけ見るので足りるの?という疑問。
    旧有限会社における持株会社の設立可能性についての判例研究は持株会の脱法的な使用方法についての指摘が個人的には興味深かった。
    飲食店店員の過労自殺判例研究は、労働時間管理体制・長時間労働是正体制構築義務についての指摘については、納得。
    不競法2条1項1号の判例研究は、差し止めの可否についての検討は、評者のコメントの趣旨が今一つうまく理解できなかった。
    日本郵便事件の判例研究は、複数の事件をまとめて整理してくれていて、整理の仕方が分かりやすく感じた。もっとも、判断枠組みの抽象度が高すぎて、個別具体的な事例における予見可能性が低くなるような印象はあるが。
    労働契約法20条の件は、無期転換後の労契法20条の適用についての審理に関する指摘は、裁判所も含めて検討すべきところを見落としているというのは何だか怖い気がした。
    租税判例研究の事件は、東京高裁の補足的判断には納得。ただ、シンガポール居住と認められる事案だったのかは、指摘のあるようにやや疑問に思われた。
    渉外判例研究の事件は、通則法の部分は不勉強でわからないものの、不法行為地管轄の議論は面白いと思った。ただ、指摘されていたように海外から日本に電子メールを送ったことを日本国内の行為と評価している点は疑義が残る気がした。

*1:もっとも、訴状の送達については、電子的な処理でよいのかは疑義が残ると思う。最初のところは相手方の本人確認とかが不十分だと問題が生じると思うので。