芦部信喜 平和への憲法学 / 渡辺 秀樹 (著)

近所の図書館で借りて目を通したので感想をメモ。

 

法学系であれば、憲法で必ず目にする芦部先生。僕も、学部の時の憲法I(樋口陽一先生が講義をされていた)のテキストは「国家と法I」(今の岩波の「憲法」の基になった放送大学のテキスト)だった。その芦部先生に関する評伝ということもあり、目を通して見た。

 

評伝部分は100頁ほどで、正直芦部先生のごく一部の部分に光を当てたにすぎず、光が当てられた部分自体は、興味深いものの、この部分から何が言えるかというと疑義が残る。アメリカ留学時代の話や、教育者としての側面については、あまり触れられていない。触れられているのは、寧ろ幼少期の話だったり(著者が同郷ということもあり、この辺りは詳しい)、学者としての対外的な側面だったりする。これは新聞記者である著者のリソースとか伝手の問題なのかもしれない。とはいえ、憲法のテキストで出てくる有名どころの判例のいくつかに芦部先生が関与された様子は読んでいて興味深いのは確か。

 

200頁余の本書の残る部分は、一定の接点のあった方々へのインタビューと、著者が報じた2件の報道及びその取材経過、並びに、報道の一件の、存在しないとされていたが、情報公開請求で見つかった靖国懇談会の議事録のうち1回分、で構成されている。
インタビューについては、そもそも人選に疑義がある方も含まれている(某元文部科学事務次官...)のと、新聞での連載が基なので、紙面の関係上やむを得ないのだろうが、学者の方々についても、お一人当たりの分量が少なく、物足りなく感じる。
靖国懇の議事録については、そもそも議事録がないとされる辺りからして、かの党の政権は昔も今もそういうところだよな、という感想しかない。今回公開されている議事録を見ても、事務方が議論を特定方向に誘導しようとしている感があり、それに対して、学問的な誠実さをもって対応されようとしている芦部先生の様子も見て取れる。

 

いずれにしても、憲法上の「巨人」の足跡に触れておくのは、法学に関心のある方々にとっては無駄ではないと思うので、読みやすいこともあいまって、目を通しておいて損のない一冊だと思う。