刑事弁護人 (講談社現代新書) 新書 / 亀石 倫子 (著), 新田 匡央 (著)

令状なしのGPS捜査の違法性を認めた大法廷判決を勝ち取った弁護団のリーダー格の亀石先生が,この判決に至る過程について,書かれた本*1

 

この事件というと,個人的には,この事件の解説が乗るという刑訴法百選10版が合格した年の司法試験直前に出たのを思い出す。試験直前に出るので,見るべきかどうかそれなりに悩んだが,気になったので,某予備校の書籍部で,急いで購入したのだった。急いで中を見ると,百選の標準的なフォーマットに反して,1事件に6ページを費やし,しかもアメリカの判例への言及が多いという,掟破り感たっぷりの記事で,めまいを禁じ得なかったのをどうしても思い出す。当然のことながら,その時は読んでも頭に入らなかったのだが…。

 

それはさておき,大法廷判決であり,比較的期の若い(僕よりは上の期の方々だが)先生たちだけで勝ち取ったものだったので,この種の記録が出ないかなと思っていたところであり,出るという話をTL上で見て早速購入した。亀石先生の単著ではなく,プロのライターの方との共著の形になったこともあってか,非常に読みやすくまとめられていて,見た目は分厚く見えたとしても短時間で読めるのではないかと思う。

 

印象に残った点をいくつかメモ。

 

まず事件の発生から時系列に従って,最高裁まで一通りのプロセスが描かれているので,刑事訴訟,特に刑事裁判の理解を深めるうえで有用と感じた。司法試験・予備試験の受験生にとっても,副読本として良いのではないか。特に公判前整理手続き周りのやり取りは,受験生にとっては,公判前整理手続きが,どうしてもイメージしにくいように思うので(僕もそうだった),こういう実際の事件でのやり取りを見るのが有用という気がした。

 

次に弁護団のチームの作り方,それと,外部の知恵の借り方が興味深かった。弁護団というとどうしてもベテランから若手まで,みたいな編成を想像するのだけど,亀石先生はそれを避け,近い期の方々で弁護団を編成され,しかも,適材適所という形で*2,チームを作られているのが,印象的だった。そして,そのことにより,和気藹々と弁護団活動を進めてこられたように見えた。楽しいことばかりではなかったはずだけど*3,それでもそのような印象は変わらなかった。その反面で,ベテランの知恵を借りたいところや,外部,特に学者の意見を聴こうという場面についてはどうするか,についても,今風のやり方で対応されていて,なるほどなあ,と感じた。インターネット上及びそれ以外のネットワークの使い方が印象的。そして,それぞれの先生方の応対も個性的で秀逸だった。

 

また,最高裁大法廷での弁論が載っていて,こういう形で弁論をするのか,ということや,そのためにどういう準備をするのか,ということも,自分にこういうことをする機会があるとは思わないけど,1年目の弁護士の立場としては,興味深かった。

 

最後に,既にTL上でも指摘があったけど,最高裁まで争う姿勢を保った被告人の方の「侠気」があったからこそ,大法廷判決にまでこぎつけることができたということも忘れてはならないと思う。被告人にとって争い続けることには,刑の確定が遅れるなどの明確なデメリットがあるにも拘わらず,争う姿勢を保つことができたことが,奇跡的にも思われた。そういう意味で,人に恵まれたがゆえの判決ということなんだろうと思う。

 

 

 

 

*1:一部で話題になっていたように,カバーが二重になっていたが,これは諸々の大人の事情によるものと思われる

*2:刑事弁護の経験とは別の観点が提示されているのも興味深い

*3:弁護団の先生方が,亀石先生対策を議論しているあたりからもその辺りは推測可能だろう