立ち位置の差異について

某無双な方の某呟きを見て,外の弁護士さんと企業法務の中の人(資格の有無は問わないことにする)との差異について,自分なりに思うところをメモしてみる。下書きモードで諸々呟いたもののまとめなのだが。

なお,以下については,僕自身が経験し,または,見聞きした内容に基づく私見なので,他の考え方があり得ることにはご留意いただきたい。

 

まず,企業法務の中の人とは,機能としての法務の機能を果たす職責の人をいい,部署名とは別に考えることになろう。前にも書いたとおり,法務部という名前のある部署のみが,法務機能を果たすわけでないから。ちなみに,僕が居た最初のところでは,契約書チェックは事業部門の契約担当で,本社法務は基本タッチしなかった(事業部門の相談とか係争対応とか免許関係等が所管だった)。


話を戻すと,企業が意思決定をして,それに基づき行動をするというのは,一連のプロセスだけど,その中で法的な問題点につき分析をして,対応策を考え,当該対策の可否などの決定過程をサポートして,実行を見守る,というような過程がある中で,法務の機能を果たす人はその全部を視野に入れることになる。


他方,外の弁護士さんにお願いするのは,そのうちのごく一部ということになる。訴訟の対応であれ,それ以外の交渉であれ,法律相談であれ,その他の助言であれ,一部を切り取って依頼することになるのは間違いない。

 

その一部を切り取る決定をして,一部を切り出し(必要な情報を可能な限り整理して,話を聴くべき人を集めるとか),切り出した業務を委託する先を決めて(選択肢がないこともあるが,あることもあり,後者の場合はその中で誰にするか決めることも含まれる),委託することになる。そして,委託したことが終わるまでの間,必要な質疑応答などを行い,一段落したところで,得られた結果を社内に戻して,その後の対応業務とかを行うことになる。これらすべてを法務機能の担当者が直接全部するとは限らないけど,そういう流れを所管することになる。


つまり,全体を見て,収まるべき範囲に(経営陣の経営判断の範囲内に),収まるように必要な対応をすることになる。外の先生に出す内容は,内製では対応できないような専門分野か,手が足りないか,実質的に内製でできたとしても,しないほうがいい分野(外部の意見であることが必要なもの)か,ということが基本と思われる。外に出すという決断をした場合には,前記の出す理由を見極めたうえで,可能であれば,出す先の選択・振り分けをすることになる。

 

専門性故に外に出す事例の一つが訴訟(弁護士倫理上の考慮から外に出すという判断をする場合もあるけど),専門分野のものは,外に依頼するという前提が維持されるならば,内製で外に出せば足りるような専門的な調査ができないことは大きな問題ではない。そういうことができるだけの設備などの維持の費用対効果を考えると余計にそうなる。使用頻度がそこまで高くないだろうし。そういう意味で,中にいるとリサーチ能力が云々というのは,一面の真実ではあるかもしれないけれど,そのことをもってどうこういうのは,そういう立ち位置の差異に対する無理解の自白になりかねないので,注意が必要な気がする。


他方で,外の人には見えづらいのではないかと思うのが,外に出す前さばきと後処理。前者については,そもそも内製するか,外に出すかの判断,と外に出すという前提で,誰に依頼するか,ということ,それから,そこが決まったとして,出す際にどういうインプットをするか,アウトプットをもらうかの整理。


前さばきがうまくないと,もらうアウトプットが,自社の問題意識と十分噛み合わなかったりしかねないので,十分な整理がなされることが必要なはず。とはいえ,そこには,事案によっては,法的な知識だけでなく,自社の状況の理解とか,関係者の能力の読みとかがいることがあるので,それほど簡単ではないと思う。


今は,外の立場で,前さばきをしたものを受け取る側だけど,諸般の事情で,前さばきが必ずしも十分できていないこともないではなく,そうなるとそもそも検討すべき内容以前の部分の前提部分に?が出てきて,本題に入る前に時間がかかったりする。ビジネススキームが十分理解できないと契約書のチェックも難しい。


後処理も似たようなところがある。可能であれば,後処理というか,最終的な意思決定のゴールを睨んで,後ろから考えていけたほうが無難だけど,常にできるとも限らない。

 

関連して,PMIが基本内製なのは、社内の諸々の整合性、暗黙的なものも含め、が必要なところ、整合させるべき対象の理解が困難という面があると思う。特に,暗黙的なものは、社内にある程度の時間いないと理解しづらいから。また,その意味で、1,2年の事務所からの派遣でその辺りをどこまで理解できるか、という問題もあるかもしれない。*1*2

 

組織の中での一機能として法務機能がある以上,組織全体の意思決定に必要な貢献をしていくうえでは,単なる法的な分析以外の対応も行うべき業務に含まれ,社内において,調整業務めいたものが入らざるを得ない(交渉という側面もあるけど,それだけでもない)。外の弁護士が行う行為が法的な分析に限られているという意味ではないけれど,内部調整的な行為は,社内政治の養素も含まれたりする面もあり,外の人が行う行為とはニュアンスが異なると思う。

 

そういう立ち位置の差異から,求められる能力は自ずから異なっているわけで,そこの差異を踏まえた動きがいる局面が,時折存在する。その際の理解の一助になればと思う。

 

*1:正直,「帰るところのある」人が,プロパー社員と同じ感度でものが理解できるのかということ自体,疑問だけど。

*2:そもそも理解することが求められているのかという問題も別途存在するのも確かなんだけど。