ジュリスト 2024年 07 月号

例によって目を通した範囲について、呟いたことを基に箇条書きでメモ。

  • 海外法律情報。
    ドイツの大麻との「統制された関わり」の解禁は、6月号の法学教室での大麻の濫用防止と法規制のところで語られていた、取締が実効的にできないので制約下での流通を認めるというのと共通する部分があると感じた。
    カリフォルニア州の生殖補助医療、はこうしたプロセスを経て生まれた方々が自分の出生に至る経緯を知りたいと思った時にどうなるのだろうと心配になる。
  • 判例速報。
    会社法の株券発行前の株式譲渡の当事者間の効力は、解説Iの最後の指摘になるほどと思うけど、会社側で認めることができるのかは疑義がないのだろうか。
    労働法の訪問指導等を行う労働者に対する事業場外みなし労働時間制の適用の有無、は解説最後に挙げられてる考え方からすれば判旨はそうなるよな、と思う。手間だけど個別事情を検討するしかない。
    独禁法食べログ事件控訴審判決は、公取の動きと判決の関係性や被告側の訴訟戦略に付いての解説での指摘が興味深い。食べログとかのスコアで安易に飲み会の場所とかを決める人間としては判旨について疑問に思うところはあったけど。
    知財の「美容医局」事件は、解説で挙げられている事実経過からすれば、そういう判断になるよねと思う。
    租税の固定資産課税台帳登録価格の決定の適法性は、解説最後で指摘されている点は何だか微妙。骨折り損の草臥れ儲けにぬ可能性がある点で。
  • 書評。
    『ドイツ公法史入門』は、対象書籍がこのタイムミングで訳出されることの意義についての指摘が興味深い。
    友利昴著『エセ商標権事件簿――商標ヤクザ・過剰ブランド保護・言葉の独占・商標ゴロ』については、対象書に向けられる批判を理解しつつも、内容を理解し熱く擁護しようとする評者の姿勢が実に評者らしいと感じる。
  • 〔鼎談〕EUデータ法が目指す世界は、EUデータ法の概要の解説とこの法律がもたらし得るインパクトやそれへの対応についてのもので、扱う対象が膨大になりそうでどうやったらいいのやらとため息をつきながら読む。
  • 特集サイバーセキュリティへ。〔座談会〕個人情報保護法からみたサイバーセキュリティは、諸々の制度と足元の実務との整合性が取れていない状況についての解説が興味深い。この辺りも疎いので知らないことだらけだった。
    サイバーセキュリティ法制の概観と課題は、網羅的ではないかもしれないが、全体像の鳥瞰として分かりやすいと感じた。
    ランサムウェアに関する法的論点の整理は、ありふれていないJの整理の仕方がすごい。「先端的分野であればこそ基本法に立ち還るべきである」「具体的な対応手段まで含めた使い物になる議論のためには、インシデント当事者が直面するミクロな法的問題の分析との連続性が重要」との指摘には納得。推し活の話がサラッと出てくるものもすごいというか何というか。
    電気通信事業法改正—特定利用者情報の適正な取扱いに係る規律は、勤務先が適用対象ではないので調べたことがなかったが、対応が大変そうな印象。
    サイバー攻撃による被害に関する情報共有の促進に向けた検討会における最終報告書の紹介は、報告書の存在自体知らなかったので興味深く拝読。最後に政府の対応に苦言を呈しているのはなるほどというところ。
    この特集は個人的には不勉強な分野の現状がある程度鳥瞰出来る点で良かったと思う。
  • AIと著作権――「AIと著作権に関する考え方について」のインパクト。イントロのあとは特集にあたって—「考え方」の骨子・意義。特集の対象についての要領の良いまとめというところか。
    「AIと著作権に関する考え方について」開発・学習段階のポイントは、この辺りの土地勘がないこともあってよくわからなかったが、根拠はないものの、何か抜け漏れがあるのではないかという気がした。
    AIと著作権(生成・利用段階について)は、開発・学習段階の話よりはまだ想像しやすい感じがした。被害を被る側の救済から考えるとこういう感じになるのかなという印象。
    AI生成物の著作物性に関する議論の現状と今後の法実務は、既に他国では著作物性について判断した事例があり、考え方にも差異があるというのが興味深かった。
    著作権侵害訴訟における主張立証と「AIと著作権に関する考え方について」は、AIと著作権という新しめのテーマとはいえ、今までの議論を踏まえて検討すべきということをあらためて感じた。
    特集は、こちらがあまりAIを使っているわけではないことも相まって、話についていけなかった部分も多かったが、「考え方」が出た時点での議論の整理という意味では、そういうものなのかもしれない、と思うところが多かった(汗
  • 連載/SDGsと経済法の2030アジェンダにおける漁業と経済法は、漁業への規制と経済法の関係というのは、考えたことがなかったものの、難しい問題がありそうで、著者が書かれているように公取の積極的な関与があるべき分野かもしれない。
  • 連載/海外進出する企業のための法務 債権回収と倒産は、この紙幅で書けと言われるとこうなっても不思議はないけど、だから何、という感じの内容。この先が重要と思うのだが...。読者の知識レベルが想定しづらいからこうなるのかもしれない。
  • 新法の要点 令和6年度税制改正—企業関連の税制を中心に、では、イノベーションボックス税制が興味深く感じられた。
  • 時の判例
    1筆の土地の一部分についての件(詳細略)は、登記実務が保全の必要性の判断に影響するというのは興味深いけど、個別具体的な事情次第では保全が認められるか変わる可能性があるのは予測可能性の面でイマイチかもしれない。
    共同して訴えを提起した件(詳細略)は、いろいろ考えるとそういうことになるんだろうなという程度。
  • 判例研究。
    経済法の福岡有明漁連による海苔の全量出荷の要請等についての確約計画認定は、事実関係を調べたうえでの踏まえた評釈が興味深い。
    商事判例研究の自動車保険の他車運転特約にいう「常時使用する自動車」の件は評釈の批判に賛成。個人的には問題の特約について加入時にどういう説明をしていたが気になった。
    非公開会社における弁護士による議決権の代理行使は、従来の裁判例では、非株主である弁護士による議決権の代理行使を拒否できるとするものが多いという評釈での指摘がやや意外な気がした。自分が弁護士の端くれだからそう感じるのかもしれないが。
    消費者契約法に基づき契約全条項の使用が差し止められた事例は、全条項というのが凄いと思ったが、評釈で紹介されている内容からすればそりゃそうなると納得。最後にひかれている「内容の不分明な契約条項で構成された契約は、そもそも契約としての効力を主張できない」という指摘には納得。
    労働判例研究の管理栄養士に対する配転命令と就業規則の不利益変更の拘束力は、評釈での、キャリア形成の利益に対する考慮不足の指摘には納得。
    年俸額の合意が成立しない場合の使用者の年俸額決定権限の有無は、合意不成立の場合にどうなるべきか考えたことがなかった。そういうことが生じないようにしないといけない。
    租税判例研究の親子間の土地使用貸借契約による所得の帰属と実質所得者課税の原則は、お金持ちは大変だなあと思うとともに、評釈最後のコメントに同意。予測可能性は重要だろう。
    渉外判例研究の外国を仲裁地とする仲裁合意への仲裁法附則4条の適用は、「個別労働関係紛争」への該当性の検討が興味深かった。指摘があるとおりフリーランス法が適用になると影響が出てきそうな話に見えた。
    刑事判例金融商品取引法167条1項6号にいう「その者の職務に関し知ったとき」に当たるとされた事例は、評釈を読むと、該当する・しないの線引きが難しいと感じるが、最後は「決め」の問題で、むしろ線がどこにあるかを明確にすることの方が重要ではないかと感じた。