〈ケース研究〉著作物の類似性判断 ビジュアルアート編/上野達弘 著 前田哲男 著

一通りlegal libraryで目を通したので感想をメモ*1

類書がないこともあり、著作物の類似性判断に関わるのであれば手元にあって損のない一冊ではないかと感じる*2

 

著作物の類似性というのは、著作権侵害の要件として必要なことは、理屈の上では理解しやすいように思うが、実際に何をもって類似性ありと判断するのか、わかるようでわからないと感じる。僕自身は、これまで著作権がらみで問題となるのは、寧ろ適法な引用かどうかというようなあたりだったので、その辺りを争う事例に業務上接する機会もなかった。そういうこともあって、いったいどういう感じなのかと思って、目を通してみた。

 

本書は、著作物の類似性判断について、裁判で問題になった例を基に検討してみるもので、研究者の上野先生と実務家の前田先生の手によるもの。冒頭、上野先生から理論面について、前田先生から訴訟実務面について、それぞれ総論的な解説があった後に、各論として、ケースの検討があり、イラスト、美術等、書・文字、写真の4つの分野に分けて、裁判例の傾向の概説のちに、類似を肯定した事例、否定した事例それぞれの裁判例の紹介と、お二方の対談による検討が付されている。裁判例の紹介では、一部例外はあるものの、写真が付されている。写真をみながら、ああでもない、こうでもないと議論をされている先生方は純粋に楽しそうにも見える。

 

こちらのように不勉強だと、いろいろ見ても、特に微妙なケースでは分かるようで分からない、というのが率直な印象。直観的にいろいろ思うところはあるが、判決文にあるように、言葉で分析的に記述できるわけではない*3

 

意外だったのは、訴訟の対象となっている物以外の事情が判断に影響した可能性がある点。従前の経緯とか訴訟における当事者の行動が類似性の判断に影響するという指摘がなされていて、裁判官の心理の問題としては理解できなくもない反面で、類似性とは直接的には関係のない事情が影響する事がいいのかどうか疑義が残った。

 

いずれにしても、類書を見ないこともあり、手元にあっても良いのではないかと思う。あえて言うなら、訴訟で問題になったものの写真については、もう少し解像度が高い方が良いのではないかと思うものがいくつかあったので、改訂などの際には検討していただければと思う*4

 

 

 

*1:1月末にupするつもりがエントリが間に合わず、後日遡及してupしている。

*2:もっともlegal libraryにあるので、それで足りるかもしれない(汗)。

*3:事務所勤務時代に、必要に迫られてやったことがあるが、難しいと感じた。

*4:legal libraryで見ると図表が白黒だが、色が議論になったものについてはカラーにしてほしいと思った。